2つの「旅」

畑中章宏*1『100分de名著 宮本常一『忘れられた日本人』 歩く、見る、聞く』に曰く、


大学四年の頃だったでしょうか、[宮本常一の]『忘れられた日本人』*2を初めて読んだとき、宮本常一の旅の仕方は、『雪国の春』に見られる柳田国男のそれとは、明らかに違うと感じました。
柳田は、電車や汽車を使い、旅先の風物・風光を、自らの知見をもとに学者の目で見て記録する、そんな「知的な旅行」を感じさせます。
一方、宮本の旅はまるで違います。三十二歳年上の柳田の時代より交通網は発達しているはずなのに、リュックを背負い、ゲートルを巻き、ズックの靴を履いて歩きながら、地域の人の話を聞き、そこに生活する人びとの慣習やリアルな営みに迫る。のちに出版する雑誌『あるくみるきく』の名の通り、歩いて見て聞き、生きた「生活そのもの」を記録するのです。(pp.4-5)