５人の「愛国心」 - Living, Loving, Thinking, Again

海老坂武『戦争文化と愛国心』*1から。
柳田謙十郎、久野収 *2、杉捷夫*3、加藤周一 *4、日高六郎 *5「愛国心の検討」（『日本評論』26-4、1951年）という座談会について。

柳田謙十郎は愛国心には階級性がありブルジョア的愛国心とプロレタリア愛国心とは区別されるべきことを説き、後者をソ連主導のインターナショナリズムと結びつけようとする。
これに対して久野収は柳田の言うインターナショナリズムそのものに疑問を呈する。もちろんそれはソ連のことなのだが、そこには「一強国のナショナリズム」が織り込まれているのではないか、と。久野はあくまでも愛国心をナショナリズムの問題として考察しようとし、「独立と結びつくナショナリズム」を繰り返し説く。さらに、平和が勝利するためには、それがナショナリズムと結びつかなければならぬ、と。また再軍備をさせないでおこうとするなら「ネーションの名において」平和の組織、防衛の組織をつくらなければならなぬ、と。ただ、久野が「国土防衛の組織」「侵略に対する抵抗の組織」なるものを提案するとき、何を具体的に考えているのかは曖昧である。とりわけ「ネーション」というカタカナ言葉をもちいるとき、ほとんど了解不可能な言説に見えてくる。ただ、久野の発言は、後の丸山眞男、坂本義和の「革新ナショナリズム」へとつながっていくことに注目しておきたい。
この二人に対して、加藤周一、杉捷夫、日高六郎はいわば慎重派、真っ向から愛国心を斥けはしないが、この言葉を再軍備論が持ち上がっている当時の状況の中で用いることに否定的であり、独立―愛国心よりも平和を重視するという点で、柳田とも、久野とも一線を画している。また日高は「民族国家が成長してきた古典的ナショナリズム」が存在しない日本において「正しい愛国心」が出てくるかどうか疑問だとし、加藤は愛国心には「現実的根拠」を与えねばならない、それは生活改善であり、平和であるとしている。
これらの議論に共通するのは、一つは、かつての悪しき愛国心についての反省、批判である。すべての論者がかつての愛国心、ファシスト的、軍国主義的、忠君的、攘夷的愛国心を非としている。それとともに、なぜこのような愛国心が力を持ったのかの分析が若干見られる。ついでこれに関連して、かつての悪しき愛国心と区別される新しい愛国心、良き愛国心とは何かを探求する姿勢である。愛国心は自然の感情か、育成すべきものかが議論の分かれ目になっている。ただ、どの論者も個人的意見、立場の表明であり、それはそれで興味深く、また大事なことであるが、愛国心というものをトータルに分析する論はなかった。それを最初にやったのが一九五〇年に刊行された清水幾太郎 *6の『愛国心』である。（pp.137-138）

清水の『愛国心』についてはp.140以降に「清水幾太郎『愛国心』」という節が設けられている。

*1:Mentioned in https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/06/19/023959 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/06/24/032250 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/07/01/080527 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/07/12/170045 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2022/07/15/045318

*3:See eg. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%89%E6%8D%B7%E5%A4%AB

*5:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20070320/1174400423 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20110407/1302191011

*6:See also https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20130129/1359438129 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20171129/1511957541 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/20180416/1523815560 https://sumita-m.hatenadiary.com/entry/2021/06/03/130535