「た」と「て」

いしいしんじ*1『げんじものがたり』は『源氏物語』の現代京都弁訳。
「きりつぼ」の始まり;


どちらの帝さまの、頃やったやろなあ。
女御やら、更衣やら……ぎょうさんいたはるお妃はんのなかでも、そんな、とりたててたいしたご身分でもあらへんのに、えらい、とくべつなご寵愛をうけはった、更衣はんがいたはってねえ。
宮中で、フン。うちがいちばんに決まったあるやん、て、はなっから思いこんだはった女御はんらみんな、チョーやっかんで、邪魔もん扱いしはるん。おんなしくらいのご身分や、それより下の更衣はんらにしても、ずんずんあからさまに、いらいらを募らせはってね。(p.11)
「ぎょうさんいたはる」、「いたはってねえ」、「決まったある」、「思いこんだはった」は大阪だと、


ぎょうさんいてはる
いてはってねえ
決まってある
思いこんではった


となるんじゃないか? 東京の言い方(標準語)でも、「決まったある」、「思いこんだはった」は、


決まっている
思いこんでいいた


になる。「て」でなくて「た」が京都流? 東京者からすると、「た」って終止形でしょ、ここは連用形じゃないの? と思ってしまうのだけど、この場合の「た」は京都弁においては連用形であるわけですよね?