「旧粕谷家」(メモ)

「旧粕谷家住宅の保存と活用」『東京の文化財』(東京都教育庁地域教育支援部管理課)132、p.6、2022


板橋区徳丸7丁目にある「旧粕谷家住宅」について。


旧粕谷家住宅は、板橋区徳丸にある江戸時代の古民家です。平成27年(2015)からの解体・復元工事により当初材である南東隅の柱の枘から「享保八年卯二月三日」の墨書銘が発見され、当住宅が享保8年(1723)に建築されたことがわかりました。令和5年(2023)2月3日には築300年を迎えます。施主は、徳丸脇村の名主を務めた粕谷五郎右衛門と考えられます。享保11年に、五郎右衛門は浅右衛門と名乗って粕谷家からこの家に移り隠居しました。以後、当家は幕末にかけて村の年寄や組頭役を務めるなど村内において有力農民層を形成していました。
建物は、3本の大黒柱、三間四方のヒロマ、押板、シシ窓といった関東地方における江戸時代中期の古民家に見られる特徴の多くを備えています。化粧軒天井が施された初期の事例であるとともに、茅葺屋根の軒反りなどの社寺建築の技法も特徴の一つです。また、建築された享保年間から当初の場所に建っており、年代が明らかな民家としては都内最古級です。このように、旧粕谷家住宅は、関東の古民家としての地域的特色や江戸近郊の民家建築の発達過程を示す貴重な建造物です。
平成15年に「粕谷尹久子住宅」として区の文化財に指定され、同19年に区への寄贈を受けて「旧粕谷家(東の隠居)住宅 付宅地」に名称が変更されました。その後、同30年に上記の理由から「旧粕谷家住宅」として都指定有形文化財となりました。