「心霊現象より恐ろしい」

壇蜜*1「話題の本」『毎日新聞』2022年8月6日


曰く、


私が10代の頃は、夏場や年末に心霊番組やオカルト特番、超常現象スペシャルなどがよくテレビで放送されていた。今はテレビでの特番は減っている気がする。本当にあった怖い体験談や、身の毛もよだつような心霊写真を話したり写したりしたら、「それ本物?」と疑われそうだし、万が一捏造がバレたら心霊現象より恐ろしいことが待っていそうだ。昔はそこまで訝しむことなく「盆暮れに見せられたものをそれなりに怖がる」プレイとして心得ている感じだった。(略)
最近は動画サイトやネットラジオなどで、いわゆる「怖いやつ」は配信されていると夫から聞いた。夫もそういう類の話に興味があり、昔からテレビの特番も観ていたという。大人になり、「特番減ったなぁ」と物足りなさを感じていたら、インターネットでの配信にたどり着いたらしい。いわゆるメジャーな扱いからは少し遠のいたが、見る人は見るし、好きな人はのめり込める。特別な世界観にどっぷり浸れる。「私だけが知っている」優越感もわくだろう。
そして本題。

(前略)『憑きそい』(山森めぐみ著・扶桑社・1155円)は恐ろしい「何か」を感じた、「何か」に触れた著者や彼女の知人たちの体験を描いた短編集だ。日常の中にできた隙間にフッと入り込む恐怖を敏感に察知した瞬間、本人が一番怖いだろうが、マンガとして読まされた我々は「フッ」が何度も繰り返し味わえてしまう。植え付けられた怖さが徐々に育ち、夜思い出したり体験者を自分に置き換えたりするなどのオリジナル展開が個々に出来たりしてしまう。