動詞

幸田文「えぞ松の更新」(in 『木』*1、pp.9-33)から。


九月二十八日というに北海道はもう、もみじしはじめていた。染めはじめたばかりの紅葉なので、あざやかさ一際だった。レールぞいに断続しつつむれ咲くのこん菊は紫がふかく、宿の玄関わきに植えられたななかまどは、まっかな実を吊って株は重く、秋はすでに真盛りへかかろうとしていた。通された部屋には、ストーヴに火があり、日の暮れる頃にはなお急速に冷えてきて、今朝東京をたつ時半信半疑できいた、北海道は三度、という気象情報を皮膚でじかに知ったことである。(p.10)
もみじする


という動詞は聞いたことがなかった。


紅葉しはじめていた


と漢字で書いてあれば、読む方も、


コウヨウしはじめていた


と心の中で呟いて、「もみじ」には気づかなかっただろうね。