大隅語る

渡辺諒*1「そこが聞きたい 日本の基礎研究」『毎日新聞』2022年6月14日


大隅良典氏*2へのインタヴュー記事。


――大学の研究現場では近年、どんな変化が起きていますか。

博士課程に進む学生が非常に少なくなっている。日本の大学での研究は優秀な大学院生に支えられてきた。このままでは研究の継続性や発展が弱まり、大学全体の活力も下がる。とりわけ基礎研究の分野で顕著な傾向だ。
私が学生だった時代、大学院修士課程は一人前の研究者になるための訓練期間と考え、博士課程に多くが進んだ。博士課程になると、テーマを自分で決めて研究を進められる。しかし今は、博士課程に進まない学生が多く、研究の楽しさや本質を知らないまま就職することが多いのではないか。


一つはシステムの問題だ。博士課程を修了する27、28歳になるまで学費を支払わなければならない現状では、裕福な家庭の子どもしか進学できない。社会にとって研究者が必要だと認識し、科学的な分析に基づき、必要な人数や質を国が支える制度が必要だ。
もう一つは、教授が楽しく研究に取り組めていないという問題だ。学内の雑用や研究費獲得のための作業に追われ、思うように研究を進められない。研究指導もまともにできない。今の学生の目には、大学教授がいい仕事だと映らなくなっている現実がある。
大隅基礎科学創成財団」*3について;

この財団の使命は「面白いテーマで、生き生きと研究している人を一人でも増やすこと」だ。国の科学研究費助成事業(科研費)や他の研究費の多くは、現在目立った成果を出しているかが選考基準になる。千穂の大学で必要な研究装置がなく、今のところ成果が出せていない人は選ばれにくい。
これに対し、財団は素晴らしいアイデアがありながら、研究費を得にくい人への支援を基本としていて、例えば「あと500万円あれば研究をもう一歩先に進められる」という人や、定年で研究が続けられなくなる人も選んでいる。最近科研費は若手に手厚く配分される傾向があり、結果として支援先は40~60代が多い。

企業ではやりにくい基礎研究に大学は取り組み、製品開発のような大学では決してできない研究を企業は行う。互いの相違点を認識して協力し合う。そのような真の連携を作り出したい。(略)
日本の企業の多くは最近、グローバル化の中で社会の持続的な発展や生き残りのため、大学の研究を大切にしたいという意識が強まっている。だが、そうした変化を大学側が受け止められず、連携先として海外の大学に目を向けている企業も多い。