鯖と烏賊がいなくなった

Via https://nessko.hatenadiary.jp/entry/2022/04/22/115359

森健*1「青森でイカ・サバ激減――日本の海の異変、ひたひたと迫る「魚種交替」と「温暖化」」https://news.yahoo.co.jp/articles/188269048081e7fbcc61bfb0fa418422be72cdd3


青森県沖の太平洋では烏賊や鯖の漁獲量が激減している。


例年八戸沖では、サバは8月くらいから獲れ始める。このサバが南に下ると、宮城県石巻の沖合では特産の“金華サバ”として水揚げされる。だが、昨年八戸沖ではなかなかサバが獲れなかったと株式会社八戸魚市場・漁船部長の工藤亮人さんは言う。

「やっと(魚群が)出たのは福島・相馬沖で、それも11月くらい。そのあとサバはすぐ千葉・銚子沖まで南下してしまい、銚子沖がメイン(の漁場)になった。八戸沖は前年に比べて半減だったね」

結果的に銚子漁港でサバは多く水揚げされたが、そこでも少し変わったことがあった。サイズが例年よりも小さかったというのだ。

「サバは通常300~500グラム。ところが、向こうの関係者に聞くと、多く揚がったのは200~300グラムで一回り二回りも小さかった。ただ、銚子には小さいサイズのサバも加工してくれる業者もいるので、ほかの沖合で獲っても銚子港におろしにいった船もあると聞いています」(工藤さん)


八戸港は1972年から2019年まで48年連続でイカの水揚げ量日本一を記録し、日本全体の2割ほどを占めてきた。2000年ごろにはイカだけで年間約20万トンを獲ったこともある。だが、それ以降、水揚げ量は右肩下がりだ。とくに近年は落ち込みがひどく、昨年の水揚げ量は最盛時のわずか4%だった。

「獲ったらすぐに冷凍する船凍イカ釣り漁船は、以前なら45日間ほど回って満船状態(積み荷が上限)で帰ってくるものでした。ところが、昨年11月以降はまったく獲れず、60日間以上回っても3分の1ほどの状態でした」(工藤さん)

かつては考えられなかった不漁に、船主も頭を抱えている。中型イカ釣り漁船を11隻と日本でもっとも多い隻数をもつある船主は、まったく利益が出ないとため息をつく。

「2016年ごろはまだ獲れていて1隻あたり1回の水揚げが2億2000万円以上になった。それが2年前は1億1000万円と半分に下がり、昨年は1億3500万円ほど。これでは利益が出ない。燃油代や人件費、保険など1隻あたりの経費は1億5000万円くらいかかるから。だから、このところ銀行との相談ばかりだ。何億円も借りなくちゃならなくなっている。漁に出なければ売り上げがなくて地獄だけど、獲りに行っても地獄なんだよ」


八戸には「いかの塩辛」や「しめ鯖」などの加工品を製造する工場が60あまり存在する。だが、八戸の老舗企業に尋ねると、役員の男性は「もう八戸のイカは使っていない」と打ち明けた。

「当社の加工品用では、イカは輸入の海外産に100%移行しています。アメリカ産のカナダマツイカとペルーのアメリカオオアカイカ。もう2年前からです。もちろん地元のイカを使いたい。けれど量が見込めないし、獲れても単価が高くなり、割に合わなくなってしまったのです」

何故、鯖や烏賊は激減しているのか。木所英昭氏(水産研究・教育機構水産資源研究所[八戸庁舎])の見解;

「一つ目は20年ほどの地球規模の周期的な変動による『魚種交替』。これは自然現象です。二つ目は人間の活動が原因で起きる『地球温暖化』。三つ目はそれらによる『局所的な影響』。これらが重なって、八戸での記録的な減少につながっていると考えられます」
魚種交替」という用語は初めて知った。

魚種交替」とは何か。地球では絶えず大気や海水が流動し、20年ぐらいの時間をかけて暖かくなったり、寒くなったりする。北西太平洋の日本近海が寒冷な時期は、南東太平洋の南米沖が温暖になっており、逆に日本近海が温暖な時期は南米沖の水温が下がる。これを周期的な変動というが、その時期に海で獲れる魚も太平洋全体の規模で変わってくる。

1950年から1970年ごろまでの20年間、日本近海は温暖期でスルメイカとカタクチイワシが豊富に獲れ、マイワシは低調だった。ところが、1970年からの20年間は日本近海が寒冷期となり、スルメイカとカタクチイワシの漁獲がおよそ半減し、逆にマイワシが急激に増えた。1990年からの20年では日本近海は温暖期になり、やはりマイワシが急減し、スルメイカやカタクチイワシが大幅に増えた。そして、近年再びこうした魚種交替が起きていると考えられ、それが八戸の漁獲量が減った要因の一つだという。

「温暖化」;

「海水温が上がれば、魚は自ら生息に適する水温の場所をもとめて回遊します。たとえば、従来南のほうで獲れていたサワラが2000年以降、日本海で急激に増えた。これは水温の変化に合わせて魚が移動してきたからで、西日本の魚であるブリが北海道で急増したのも同じ現象です」

さらに、八戸のサバやイカは、水温変化の「局所的な影響」を大きく受けたという。サバは従来、太平洋北西部で千島列島に沿って北海道東部(道東)、そして東北・三陸、銚子のほうへと南下する回遊経路だった。だが、近年のサバの動きを見ると、道東や三陸の沖合にあまり近寄らず、離れて南下していると木所さんは言う。

「以前の八戸沖は親潮がぶつかり、サバの好漁場となっていました。しかし近年、道東沖にはマイワシの群れがあって、サバはそれを避けるようになりました。また、八戸沖には、日本海から津軽海峡を抜けて流出してくる津軽暖流があるのですが、いまはこの津軽暖流が強く張り出している。これがサバには暖かすぎるので、八戸沖を避けてしまう。結果的に、八戸の沖合ではサバが獲れなくなっているわけです」

また、「温暖化」によって、起こるべき「 魚種交替」が起こっていない?

魚種交替の周期的な変動で、この先イカやサバが戻ってくる可能性はもちろんある。だが、過去の20年周期にならえば、2010年から現在は日本近海が寒冷期に入っているところだが、実際には日本近海の水温はこれまでで最も高い水準となっている。近年はマイワシが増加傾向となり、スルメイカとカタクチイワシは減り続けている。海水温は温暖期が続いており、これまでとは異なる魚種交替が起きている。

魚種交替という周期的な変動があるところに、温暖化も重なった。海が変わってしまったということなのでしょう」(木所さん)

青森を離れて、「温暖化」と珊瑚を巡って;

そんな海洋環境の変化は八戸に限らず、至るところで起きていると北海道大学大学院地球環境科学研究院の藤井賢彦准教授は言う。

「たとえば、愛媛県大分県の間にある豊後水道は、いま世界の研究者からも注目されています。なぜなら、北と南で生態が変わってしまっているからです。北側は以前のままですが、南側はサンゴが広がり、沖縄のような海になっているのです」

サンゴは昨今、和歌山沖や千葉の館山沖などでも北上が確認されている。明らかに温暖化の影響だが、こうした変化は二次的な影響まであると指摘する。