「多言語演劇」

小原明子「Interview 濱口竜介(映画監督/脚本家)」『神奈川芸術プレス』(神奈川芸術文化財団)159、p.14、2022


映画作家濱口竜介へのインタヴュー。


――『ドライブ・マイ・カー』では、手話を含めた異なる言語でセリフを言い合う多言語演劇(略)が取り入れられていたことが印象的でした。


多言語演劇では、役者が相手の言葉を十分に理解できないため、高い集中力で接していないと演技ができない状況が生まれます。俳優には、対話における”身体の反応”を大切にした演技をしてもらいたかったので、この方法を取り入れました。手話は「嘘をついたらバレてしまう」と感じるほど、相手をよく見る必要があるコミュニケーションです。より率直な表現が含まれていると思い、言語の一つとして扱いました。


――一方で、多言語の人と共に制作する過程には、多くの困難が伴ったのではないかと想像するのですが。


異なる言語のコミュニケーションを成立させるのは、やはり大変なことです。本作でも、一つひとつの言語を通訳する膨大なプロセスがありました。「多様な人が共生する社会」を実現するためには困難や痛みも必要です。その共通認識をもつために議論を重ねてゆくことが、今求められているのではないでしょうか。

「多言語演劇」という概念を初めて知った。