外舘和子「工芸の国際性と作家性」『毎日新聞』2021年11月14日
「今や工芸(Craft)は用途の有無に関係なく、”作家が選んだ素材と作家自身の技術に根ざした創造的な表現”を意味するようになった」という。さらに、「近年。日本の作家が、工芸をあえてKogeiと表記したがるのはなぜか」と問われているのだが、そもそも「日本の作家が、工芸をあえてKogeiと表記したがる」ということを知らなかった。
日本の「工芸」は英語のCraftとほぼ同義だが、戦後の日本にはCraftとは異なる、実用量産の食器などを指すカタカナの「クラフト」という語があり、音の上ではこのカタカナのクラフトと英語のCraftが紛らわしい。これを区別する狙いが、2013年ごろから工芸作家たちが使い始めたKogeiにはある。さらに、Kogeiには、”表現における作家性”をより強調したいという日本の工芸作家たちの意図もあるようだ。
例えば漆芸なら、蒔絵の箱であれ、絵画的なパネル作品であれ、作者が漆という素材の使用を前提に制作し、作者自身の漆芸技術で創意を盛り込んだ表現であるなら、それをKogeiと呼ぶ。その意味で日本工芸会に所属する作家の「伝統工芸」も日展作家の「工芸美術」も包括する考え方である。
筆者は時折欧米の工芸研究者から「なぜKogeiと呼びたいのか?」と尋ねられることがある。「無論Craftでも構わないが、工芸表現の作家性を強調したいのです」と答えているが、Kogeiの語が今後よい形で普及するか否かは内容次第であろう。フジヤマやゲイシャのように特定の視覚イメージがあるわけではなく、あくまで包括的な概念である以上、その実例の普及が概念を決定していく。言葉は生き物である。外来語の押し付けではなく、Kogeiの中身が生きて発展・充実していく結果として、セラミックアート(陶芸)やラッカーアート(漆芸)など各種作家の工芸全体を意味する概念として浸透するかどうかは、何よりも工芸作品の質と各作家の創造性にかかっている。