「二十四節気」をさらに3分割した「七十二候」のひとつである「腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)」。「芒種と夏至の間」、6月10日前後。
和歌においては、「蛍」はしばしば「恋の化身」として用いられた。
腐った草が蛍になる。現代の感覚では理解しがたい表現だが、実は古代中国ではしばしば鯉が龍になったり、雀が蛤に変わったりと、動植物は変身するものだと考えられた。腐草が蛍になるのもその一例で、すでに4世紀に記された『捜神記』という書物には、「腐った草は蛍に、朽ちた葦の葉はコオロギに、稲はコクゾウムシに、麦は蝶になる」とある。ただその一方で同じ書物には、「コオロギはガマガエルに」とも記されているから、コオロギは特に次々と変身する生き物と思われていたようだ。
例えば、和泉式部*2の
また、源重之の
もの思へば 沢の蛍もわが身より あくがれ出づる魂かとぞ見る
また、『大和物語』から;
音もせで 思ひに燃ゆる蛍こそ 鳴く虫よりもあはれなりけれ
つつめども かくれぬものは夏虫の 身よりあまれるおもひなりけり