「刑事罰」に効果ありや?

日本公衆衛生学会、日本疫学会「感染症法改正議論に関する声明」https://jeaweb.jp/covid/pronouncement/seimei20210114.pdf


感染症法」の改正の議論では、入院勧告を拒絶する新型コロナウィルス感染者への「刑事罰」を導入するという案が出ている。勿論、これには人権上の問題が絡みついているわけだが、上掲の二学会連名の声明では、「刑事罰」導入が感染症の封じ込めを却って阻害してしまう可能性があるという逆説が言及されている;


また刑事罰・罰則が科されることを恐れるあまり、検査結果を隠す、ないし検査を受けなくなれば感染状況が把握しにくくなり、かえって感染コントロールが困難になることが想定されます。かつて性感染症対策や後天性免疫不全症候群(AIDS)対策において強制的な措置を実施した多くの国が経験したことであり、公衆衛生の実践上もデメリットが大きいものとなります。罰則を伴う強制
は国民に恐怖や不安・差別を惹起することにもつながり、感染症対策を始めとするすべての公衆衛生施策において不可欠な、国民の主体的で積極的な参加と協力を得ることを著しく妨げる恐れがあります。(p.2)
ところで、「刑事罰」を課すというと、警察による逮捕、書類送検、検察による起訴、裁判所の判決、刑務所への収監という手続きを踏まなければならず、これは速くても数か月かかるだろう。しかし、感染者の隔離というのは緊急のことだ。感染者は、事の性質上、判決までは保釈もされず、世間からは隔離されたままだろう。それで、判決どころか、多分起訴される頃には、感染者は恢復するか、或いは不幸にして死ぬかして、社会に対する危険(感染可能性)はなくなっており、世間から隔離され・自由を奪われる理由はなくなっている。にも拘らず、刑事裁判の被告として、刑事罰を課そうとする目的は何かというのが問題になる。思いつくのはスティグマ化ということだろう。ウィルスに感染して・尚且つ適切な行動を執らなかったという汚名を社会的に登録すること。しかし、その効果が大きければ大きいほど、不都合な可能性も大きくなる。PCR検査の結果を隠蔽したりとか入院の拒否が起こる理由の一つとして、新型コロナウィルス感染者に対する社会的差別があることは否定できないだろう。「刑事罰」というのはその差別を強化するものだ。