プリミティヴ?

新型コロナウィルスのそもそもの保有宿主は蝙蝠の一種だとされている。


石田雅彦*1「「コウモリ」はなぜ「ウイルスの貯水池」なのか」https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20200303-00165778/



曰く、


コウモリという生物の特徴は、その種類の多さだ。哺乳類の種類の約20%がコウモリとされ、その種類は900種を超えるが、環境破壊のせいで絶滅危惧種も多い。分布域も広く、哺乳類ではヒトとネズミなどの齧歯類、クジラ類と同様、地球上の広い範囲に棲息している。

 また、哺乳類の進化の中では比較的プリミティブな生物で、多くの哺乳類が持つ遺伝的特質の原型を持っている。つまり、コウモリの古い形質の遺伝子で保存されてきたウイルスは、変異すると他の哺乳類へ感染する能力を持ちやすいことになる。

 種類によってはかなりの長距離を飛翔するのもコウモリの特徴だ。つまり、ウイルスを広い範囲に感染させる能力を持っている。広範囲に多種多様なコウモリが分布し、広大な空間を移動するわけだ。

 また、多くの種類のコウモリは冬眠することが知られている。ウイルスもコウモリとともに越冬し、長い期間、生きながらえることができる。また、コウモリ自体の寿命も長く、30年以上も生きる種もいる。こうした意味でもコウモリはウイルスの貯水池になるのだろう。

 ヒトのトコジラミがコウモリ由来だったように、コウモリは哺乳類の血液を吸うダニやシラミなどを媒介しやすい。こうした寄生虫からウイルスが感染することも多い。

 さらにコウモリは、あまり清潔ではない湿った洞窟や木の洞などに集団で棲息する種が多い。そもそもコウモリの個体数は多く、こうした集団が密集することでウイルス感染のパンデミックを起こしやすい。また、容易に捕まえることができるので食用にする地域もある。

 コウモリの認知やセンシング、コミュニケーション手段はエコーロケーション反響定位)だ。口から発する超音波が跳ね返ってくることで、飛行したり位置を認知したりする。その際に飛び散る唾液などを介してウイルスが感染しやすくなる。

 以上をまとめると、コウモリはウイルスが好みやすい環境に棲息して大集団を形成し、広く分布して長距離を移動し、哺乳類の多くに共通する遺伝的な特徴を持ち、ウイルス感染によるパンデミックや他の哺乳類にウイルスを感染させやすい特徴を持っているということになる。

nesskoさんのエントリーで引用されている湯本貴和「コロナ危機は生態系からの警告である」(『世界』8月号)でも同様のことが述べられている*2
どちらもわかりやすく、容易に納得する。ただ、石田氏は「 哺乳類の進化の中では比較的プリミティブな生物で、多くの哺乳類が持つ遺伝的特質の原型を持っている」と書いている。また、湯本氏も「コウモリは、哺乳類の進化のなかで基にあたる祖先的な位置に近く、多くの哺乳類と共通の遺伝的な基盤を持っている」と述べている。でも、私がちょこっと検索した(文系の人間でもわかる範囲の)ソースを見ても、蝙蝠が「比較的プリミティブな生物」であることを納得することはできなかった。例えば、Wikipediaの「ローラシア獣上目」の項*3にある進化系統図によると、先ず「ローラシア獣上目」と鼠や兎や猿につながる「真主齧上目」が分岐する。「 ローラシア獣上目」からは先ず針鼠やトガリネズミ(土竜)につながる「真無盲腸類」が分岐する。「 ローラシア獣上目」の残りは、牛や豚や鹿や河馬や鯨につながる「鯨偶蹄目」と「ペガサス野獣類」に分かれる。 「ペガサス野獣類」は穿山甲の先祖、犬や猫や熊などの肉食動物につながる「ネコ目」、「ウマ目」、そして「コウモリ目」に分岐する。この系統図を見る限り、「哺乳類の進化のなかで基にあたる祖先的な位置」どころか、かなり後の方に位置することになる。
以前、拙blogで、胎盤を持つ哺乳類*4の共通先祖は鼠みたいな動物だったということに言及したのだが*5、その際に考えたことは「人間も属する霊長目というのは齧歯目ともに、哺乳類としてはかなりプリミティヴな存在であるらしい」ということだった。ところで、石田氏によると、蝙蝠というのは人間とメタファー的な関係にあるようだ。人間も蝙蝠と同様に「集団が密集して暮らし、長距離を移動し、口から唾を飛ばしながらコミュニケーションする」。
因みに、松山龍太氏は以下のように言っている;

日本では昔から、家を守る動物が「ヤモリ」、井戸を守るのが「イモリ」と言われてきたように、川辺を守る動物は「かはもり→コウモリ」と伝えられてきたと考えられています。昔の人々はコウモリが虫を食べてくれることで、病気から人を守ってくれていると思っていたのかも知れませんね。
 (「コウモリはこんなに面白い! 意外と知られていない生態と観察法」https://buna.info/article/2133/