「不安が消える」とき

海原純子「心を守るのは銃ではない」『毎日新聞』2020年3月29日。


曰く、


アメリカで銃が売れているのだという。新型コロナの影響で略奪が起きるのではという不安や、アジア系の容姿がヘイトクライムの対象になるのではという怖れがその背景にあるらしい。治療薬がない。どこで感染するかわからない。目にみえないウイルスが相手、ということで、予防のためにできることは限られていることが、不安を強くさせる。その上にいつ終息するか期限がわからず、終息する日があるのかも不明で世界的な経済危機ということになると自分ひとりの努力ではできないことが多すぎるのも不安に拍車をかけている。実際に雇用や収入面で途方にくれている方も増えていることは確かである。

自分の力でどうにもならない状態になった時、いかに心を保つかのお手本は、私は東日本大震災の被災地や、がんのステージ4の方からみせていただいた。被災地で出会った方たちから聞いて気づいたことは、「自分の身だけを守ろうとすると不安になる。でも人の命を守ろうとすると不安が消える」ということだ。津波でご家族や家を失って、でも地元のコミュニティーで復興のために働いていた方、医師や看護師や保健師の方は、その役割をしている間、不安は薄れていたときいた。1日24時間をすべて不安でぬりつぶすのではなく、不安が入りこめないようなひとときをつくり、自分のできること、自分以外の人を助けることに集中することが不安にまけない手だてかと思った。