似ているからこそ - Living, Loving, Thinking, Again

紅白に登場した「AI美空ひばり」*1。本物の「美空ひばり」そっくりというのは当たり前だろう。機械学習なんだからさ。でも、本物にそっくりであるが故に本物とは似ても似つかないんじゃないか。そこでは人間の重要な特質がオミットされてしまう。別にサルトル主義者になったつもりはないのだけど、私たちには自己否定性というか自己からの超越への指向があるわけじゃないですか。それは、自分そっくりから逸脱していこうという指向。勿論、私は過去（現在）の私そっくりの反復として自己同一性（アイデンティティ）を保っているという側面はあるわけだけど、その一方で、私そっくりから逸脱して、私とは似ても似つかぬ私になる可能性というのも持っていて、これらの緊張関係において私が存立しているわけだ。機械学習による「AI美空ひばり」というのはたしかに、私たちがよく知っている「美空ひばり」にはそっくりかも知れないけれど、そのそっくりさというのは、美空ひばりが世間でよく知られている所謂「美空ひばり」とは似ても似つかぬ美空ひばりになる可能性を抑圧したことによって成立しているそっくりさであるわけだ。
そんなことを思っていたら、若松英輔氏*2が「AIが書いた『カラマーゾフの兄弟』の続編など、まったく関心がない」とツィートしていた；

たとえば、AIが書いた『カラマーゾフの兄弟』の続編など、まったく関心がない。AIは、ドストエフスキーの全作品の傾向を学習し「新作」を作るのだろうが、優れた作家はいつも、個を超え、自分の意識とは異なる何かとつながりながら書いている。もとの絵を「なぞった」ところで創作とはいえないだろう。
— 若松英輔 (@yomutokaku) 2020年3月2日