柳広司*1「未完のカーニバル――ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』」『図書』(岩波書店)832、2018、pp.36-40
少し抜書き。
『カラマーゾフの兄弟』*2を初めて読んだ時、私は圧倒された。それまで自分が読んできた小説――作者の身勝手な告白や身辺雑記、他人にはどうでも良い”ほれたはれた”の恋愛話、テレビのワイドショーでも見ているような卑小な犯罪*3、正義は必ず勝つ勧善懲悪物語、あるいはその逆の悪漢小説*4、さもなければ荒唐無稽な御伽噺といったものは、いったい何だったのかとしばし呆然となった。
何も『カラマーゾフの兄弟』が”そういった話ではない”と言っているのではない。むしろ逆だ。『カラマーゾフの兄弟』は作者の身勝手な告白文や身辺雑記であり、他人にはどうでも良い恋愛話であり、テレビのワイドショー的な卑小な犯罪(所詮は田舎の一家族内の揉め事だ)、同時に勧善懲悪物語でも、その逆の悪漢小説でもある。さらに言えば、悪魔が出てくる荒唐無稽な御伽噺だ。
私が打ちのめされたのは「一つの小説にここまで盛り込むことができるのだ」という事実であった。自在な書き方はそのための手段だ。視点の問題など何ほどのことであろう。(p.39)1
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*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180423/1524452052 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180516/1526459233 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180523/1527049527 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180529/1527614637
*2:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061226/1167151875 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081124/1227458917 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090621/1245586039 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120205/1328463688 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180605/1528212943
*3:「スキャンダル」というルビ。