「子どもができなくなる手術」

承前*1

『ハフィントン・ポスト』(『朝日新聞』)の記事;


2018年03月26日 09時52分 JST | 更新 2018年03月26日 11時43分 JST
中2で「子どもができなくなる手術をされた」 70代男性「人生返して」提訴へ
「長い間、胸に閉ざし苦しんできた。自分の体、人生を返してほしい」


朝日新聞社提供


障害ない男性も...中2で不妊手術 「人生返して」提訴へ

 旧優生保護法(1948〜96年)のもと、10代の時に不妊手術を強いられたとして国に損害賠償を求めて訴えを起こす意向の東京都内の70代男性が25日、会見で思いを語った。4月にも東京地裁に提訴する予定。同法をめぐっては、宮城県の60代女性が仙台地裁に提訴し、今月28日に第1回口頭弁論が開かれる。

 旧優生保護法では、遺伝性疾患や精神障害、知的障害などと診断され、都道府県の審査会で適当とされた場合に本人の同意がなくても不妊手術ができた。被害者は、少なくとも1万6475人に上る。会見した男性には知的、身体的障害はないが、弁護団によると、児童養護施設にいた際に、法律が拡大解釈され、手術されたとみられるという。

 「長い間、胸に閉ざし苦しんできた。自分の体、人生を返してほしい」。会見で男性は訴えた。

 男性には2カ所の手術痕が残る。仙台市内の児童養護関連施設にいた中学2年の時、職員に連れられた病院で、説明もなく手術を受けさせられた。「悪いものでも取るのかな」と思ったが、術後、施設の先輩から「子どもができなくなる手術だ」と聞かされた。同じ施設でほかにも3人、同様の手術を受けたとも聞いた。抵抗感はあったが、どうしていいのか、わからなかった。

 生涯独身でいようと思っていたが、縁談が舞い込み、28歳の時に結婚。子どもを授からず、親戚から心ない言葉をかけられた。妻がうれしそうに知人の赤ん坊をあやす姿を見るのがつらかった。

 5年前。妻が亡くなる数日前に、病室で初めて告げた。「実は子どもができない手術をされたんだ。子どもができないと知ってて結婚して悪かった」

 妻はうなずいただけで、「私がいなくなっても食事はちゃんととってね」と気遣ってくれた。

 今年2月、新聞記事で強制不妊手術について知り、弁護団に電話をした。3歳上の姉に連絡をとったところ、姉が当時、祖母から手術について聞いていたことがわかった。

 弁護団長の新里宏二弁護士(65)は「『不良な子孫の出生を防止する』という法の目的が拡大解釈され、対象や手続きを厳選せずに運用していたのではないか」とみる。男性の手術記録などは見つかっていない。新里弁護士は「資料が廃棄された人が大半で、男性の訴えは試金石になる」と話す。

 男性は「同じ思いをしたのは私一人ではないはず。勇気を出して名乗り出てほしい」と願う。(貞国聖子)

朝日新聞デジタル 2018年03月25日 19時32分)
https://www.huffingtonpost.jp/2018/03/25/obstacles_a_23394966/

「今年2月、新聞記事で強制不妊手術について知」ったということだけど、60代の女性の話だろうか*2。この男性についての報道が拡散されれば、彼と同じように「弁護団に電話をする人も増えるということだろうか。
この件の責任の所在というのは何処にあるのだろうか。直接的な下手人は「仙台市内の児童養護関連施設」の「職員」或いは「手術」を執刀した医者ということになるのだろうけど、「職員」や医者の気まぐれによる犯罪ということではなく、彼らは(仮令それがトンデモな「拡大解釈」であっても)「優生保護法」という法律を背負っていたわけで、何らかの社会的支持なしに法律が生きていける筈もなく、「拡大解釈」も含めて、或る種の人々の生殖能力が奪われるのは仕方がないという社会的な納得みたいなものがあったことになる。突き詰めれば、昭和の日本社会が悪かったという話になる。それだと、責任があまりにも拡散されて稀釈されてしまうので、政治家の当選や落選も、個々人の生死も越えて、存在し続ける法人としての日本国家(政府)が責任を引き受けろ! ということなのだろう。その際、主権者国民にも国家の責任を分担するという仕方で、跳ね返って来るわけだけど。勿論、この場合、最重要なのは不正義の是正或いは不正義の存在に対して補償がなされることだろう。それとともに、やはりこの〈不正義〉が如何にしてなされたのかということが具体的に解明されなければならないだろうと思う。その中で、医療や福祉や法曹*3といった制度(社会的仕掛け)が検証に晒されなければならない。勿論、何故「優生保護法」の存在が許されてきたか、或いは存在が許されただけではなく、積極的にその適用が期待されたのかということも、問われなければならないだろう。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20180313/1520961347

*2:See eg. Justin McCurry “Japanese woman sues government over forced sterilisation” https://www.theguardian.com/world/2018/jan/30/japanese-woman-sues-government-forced-sterilisation

*3:これは第一義的に法律問題であろう。