『外科室・海城発電 他五篇』

外科室・海城発電 他5篇 (岩波文庫)

外科室・海城発電 他5篇 (岩波文庫)

泉鏡花*1の短篇集『外科室・海城発電 他五篇』を読了。


義血侠血
夜行巡査
外科室
琵琶伝
海城発電
化銀杏
凱旋祭


解説(川村二郎)
初出一覧

個々の作品について詳しく触れる余裕はないのだが、これら7篇の短篇を読んで喚起された言葉は(こっ恥ずかしいのだが)〈不条理(absurdity)〉である。本を読んで〈不条理〉という言葉がストレートに喚起されたのは、若い頃にアルベール・カミュ*2の戯曲「誤解」を読んだとき以来かも知れない。
カリギュラ・誤解 (新潮文庫)

カリギュラ・誤解 (新潮文庫)

また、これらの短篇を読んだ多くの読者は、地の文(文語体)と科白(口語体)とのギャップに驚き或いは心地よい違和感を覚えるのではないだろうか。誰だったか忘れたけれど、泉鏡花の文体では近代社会(国民国家や資本主義)を記述することはできないと言った人がいたのだが、これらの作品はその不可能論に対する反証には充分なっていると思った。
ところで、渡部直己『幻影の杼機――泉鏡花論』を読んだのは、たしか20世紀の終わり或いは21世紀の初めだったと思う。目次を写しておく;

序章 幻想文学論序論――正岡子規「叙事文」から
第一章  幻影の杼機
第二章 夢の符牒符牒の夢――『春昼』『春昼後刻』論
第三章 時のまぼろし
第四章 杼機と傀儡――百輭・鏡花作中人物論
第五章 余白の描跡――散文の「詩」性について
第六章 視れることば――鏡花のルビについて


あとがき

幻影の杼機―泉鏡花論 (1983年)

幻影の杼機―泉鏡花論 (1983年)