或るバロック

神庭亮介*1インスタ映えし過ぎるラブホテル 「変えずに変える」老舗の哲学」https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/love-hotel


大阪にある「老舗ラブホテル」「富貴」について。「昭和レトロと異国情緒が奇妙に交錯した「昭和2.0」の世界」と言われている。
ところで、1970年代において、「ラブホテル」というのはそれまでの連れ込み旅館に取って代わるハイカラ、(1970年代的な言葉遣いでは)ナウい空間だったということに注意しなければならないだろう。昭和が終わる頃までは、新宿南口の現在のタイムズ・スクエア周辺には、そういう旧時代的な連れ込み宿が数件は生き残っていた筈。
新宿ではなく渋谷について、辻井喬堤清二)は


(前略)渋谷西武が六八年にオープンしたら、裏通りにあった木造二階建て「ご休憩一時間三百円」という連れ込み宿がざーっとなくなっていった。毎月のように一軒ずつなくなって、そのかわり喫茶店やレストラン、ブティックができて、裏通りまでどんどん明るくなった。あっという間に商業地域に変身してしまったんですね。(辻井喬上野千鶴子『ポスト消費社会のゆくえ』*2、p.64)

映画館のあった裏道の井の頭通りや、昔は区役所通りといった公園通りの裏道は薄暗くて、連れ込み宿がズラーッと並んで建っていました。いまどきの若者は周辺がホテルに入りますが、昔の若者はあたりが明るいと入りにくかったですからね(笑)。(ibid.)
と語っている。公園通りの変容と、旧赤線地帯の円山町のラブホ街化はパラレルなのでは?
ポスト消費社会のゆくえ (文春新書)

ポスト消費社会のゆくえ (文春新書)

さて、美学的にいうと、「富貴」のような〈ラブホの美学〉というのは〈バロック〉といえるだろう。バロックなラブホへの反発、真逆のミニマリズムへの志向は既にバブル期の少し前には出ていた筈*3