『東京新聞』の記事;
「主語が分からない」というのはテニヲハというか助詞がわからないということですよね。〈を〉と〈が〉の区別とか。たしかに、日常会話とかでは、テニヲハがなくても、具体的な状況(文脈)に助けられて、何とかコミュニケーションすることができる。テニヲハに意識的になって論理的な読解力を強化するには、リアルな状況(文脈)からの独立性が高い書き言葉経験を増やすしかないのでは? 要するに、本を読めということ。調査では読書量と読解力との相関は調べているのだろうか。
中3の15%、短文も理解困難 教科書や新聞で読解力調査2017年9月23日 朝刊
短い文章から事実を正しく理解する「基礎的読解力」について、国立情報学研究所の新井紀子教授や名古屋大学などのグループが、全国の小中高校生や大学生、社会人らを調べたところ、多くの中学生の読解力に問題があることが分かった。中学卒業までの読解力が将来に影響するという。
調査では、中学や高校の教科書や、東京新聞などに掲載された記事など数百の題材をもとに問題を作り、コンピューターで無作為に出題した。
三十分間でできるだけ多く解いてもらい、内容を正しく把握できているかを調べた。昨年から今年にかけて、全国の約二万四千人に実施した。問題はすべて選択式で、文章の意味が分かれば、知識がなくても解ける。
その結果、中学三年生の約15%は、主語が分からないなど、文章理解の第一段階もできていなかった。約半数が、推論や二つの文章の異同などを十分に理解していなかった。
また、基礎的読解力は中学では学年が上がるにつれて緩やかに上昇するが、高校では上昇しなかった。高校の教科書が理解できず、力が伸びていない可能性があるという。基礎的読解力と進学できる高校の偏差値との間には、強い相関があった。
新井教授は「基礎的な読みができていないと、運転免許など資格の筆記試験にも困難を伴うと予想される。中学卒業までに中学の教科書を読めるようにしなくてはならない」と話した。
グループは今後も調査を継続し、基礎的読解力に困難を抱える子どもの早期発見や支援策の検討に役立てる。分かりやすい教科書作りなども提言していく。 (小椋由紀子、吉田薫)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017092302000119.html
本居宣長*1は助詞を「玉緒」と呼んだわけだけれど、たしかに助詞がなければ、日本語はばらばらのビーズになってしまう。そういえば、ちょっと昔の西洋人にとって、日本語というのは先ず何よりも「テニヲハ」だったのだった。ドナルド・キーン氏*2曰く、
当時*3の常識としては――それは長く尾を引いた考え方だったのですが――日本語はとても便利で、役に立つ言語だと考えられてきました。なぜなら中国の書物の注釈書や研究書は日本語で書かれているから、日本語で書かれているから、日本語は中国の本を読むのに便利だというのです。またラテン語を基準にして、日本語にはテニヲハがあるから、ヨーロッパ人にはわかりやすいと感じる。中国語にはそれがないから、動詞なのか名詞なのかわからない時があります。日本語のために勉強するのはなく、日本語は単に道具であると割り切っていますから、話せなくてもいいと考えている人も多かったのです。同じ目的で、たとえばドイツでは満州語を勉強する人がいました。乾隆帝時代に、中国の書物が満州語との対訳で出されました。そこで満州語を勉強して、その満州語に頼って、ドイツでは中国の書物を読んだわけです。アメリカではその伝統がなくて、中国のものを読むために日本語を勉強する、そんな人たちがいたのです。
(海外における日本研究」in 『二つの母国に生きて』、pp.52-53)
- 作者: ドナルド・キーン
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湯浅誠*4「AI研究者が問う ロボットは文章を読めない では子どもたちは「読めて」いるのか?」https://news.yahoo.co.jp/byline/yuasamakoto/20161114-00064079/
*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060130/1138606972 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060425/1145932371 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061010/1160452796 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061013/1160761446 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080111/1199984086 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080519/1211163378 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080924/1222271516 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090216/1234758392 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090227/1235705016 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090928/1254069607 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101202/1291303953 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101209/1291899124 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120207/1328640778 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130226/1361894685 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130316/1363405417 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160115/1452828304 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161222/1482425853 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170310/1489118556
*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070805/1186334685 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080306/1204779649 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090831/1251739735 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110424/1303573112 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120625/1340552169
*3:キーン氏が日本語を学び始めた1941年頃。See p.51
*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070829/1188353971 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090206/1233860391 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090227/1235705016 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090716/1247747305 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091004/1254674344