Sa or za?

朝日新聞』の記事;


蔵王山、「ざおうさん」って呼んでほしい 山形市要請へ

井上潜

2017年7月30日07時12分

 蔵王山は「ざおうざん」ではなく「ざおうさん」と呼んでほしい――。市民から寄せられた願いを実現するため、佐藤孝弘・山形市長はこのほど、関係自治体と連携して国土地理院に要請する考えを明らかにした。8月上旬に宮城県内の4市町の首長と会い、呼称の変更に向けて協力を求めるという。

 要請は、蔵王山に火口周辺警報が出た2015年4月、テレビなどで「ざおうざん」と呼ばれたのがきっかけ。蔵王温泉観光協会などが「山形県民のみならず、多くの宮城県民も『ざおうさん』の呼び方。『ざおうざん』には違和感を覚える」として、山形市議会に変更を求める請願を提出。市議会は6月定例会で請願を採択した。

 国土地理院地名情報課によると、「ざおうざん」の呼び名は1931(昭和6)年に地図を作製する際、当時の地元自治体からの要望に応じたという。気象庁国土地理院に準じ「ざおうざん」と呼ぶ。

 呼称変更には原則として、関係する山形県側の山形市上山市宮城県側の白石市蔵王町、川崎町、七ケ宿町すべてが個別に要望を出す必要があるという。

 佐藤市長は「地元の学校の校歌でも『ざおうさん』と歌われており、上山市の方たちも同じ思い。宮城県の方たちにも理解を得られると思う」と話している。(井上潜)
http://www.asahi.com/articles/ASK7V5QN5K7VUNHB00X.html

蔵王山」は公式(正式)には「ざおうざん」と念むことを初めて知った。まあ連峰であり、「蔵王山」という単一の山が存在しているわけではないのだが。
この「ざん」/「さん」問題について、Wikipediaは以下のように叙述している;

宮城県側では蔵王権現山形県側では熊野権現に由来する名称が用いられてきた。1931年(昭和6年)、当連峰がまたがる宮城県柴田郡川崎村(現・川崎町)、刈田郡宮村(現・蔵王町の一部)、山形県の南村山郡堀田村(現・山形市の一部)および中川村(現・上山市の一部)の計4村が国土地理院に「蔵王山」の読み方を「ざおうざん」で申請して、表記登録された。山形県側では主峰の熊野岳以外は戦後、自治体名・神社名・温泉地名など、あらゆるものが蔵王に改称された。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%94%B5%E7%8E%8B%E9%80%A3%E5%B3%B0

2015年(平成27年)4月より、火口周辺警報を報道するテレビやラジオにおいて「ざおうざん」と連日称呼されたことで、「ざおうさん」の読み方に親しんでいる人々から関係諸機関に対して問い合わせが相次いだ。山形県内8小中学校の校歌の歌詞はいずれも「ざおうさん」という読みで、地元住民には「ざおうさん」のほうがなじみが深いという意見もある。また、角川書店平凡社の地名辞典でも「ざおうさん」と読みを付けている。2017年(平成29年)6月30日の山形市議会6月定例会の本会議において、「ざおうさん」に表記変更を求める意見書が賛成多数で可決された。ただし、「ざおうざん」と呼んでいる地域も一方にはあるとのことであり、同日時点で関係自治体の全てが表記変更に同意してはいない。
「ざおうざん」という念み方は上からの押しつけではなく、地元の要請に基づくものだった*1
また、今年2月の『山形新聞』の記事を挙げておく;

「ざおうさん」に改名できる? 県内で変更例、関連市町の結束が鍵
2017年02月11日 12:02


 「蔵王山」はざおうざん? ざおうさん? 2015年4月に噴火警報が出された際は連日ニュースで扱われ、「ざおうざん」と読み上げられたことに多くの県民が違和感を抱いた。文化や歴史をひもといても「ざおうさん」の方がなじみ深い。地元住民に何とか変えたいとの思いが広がり、山形市も改名を提起している。地名の読み方は変更できるのか。調べると、県内でも国土地理院の表記変更の実績があり、関係市町の結束に糸口がありそうだ。

 本県と宮城県にまたがる蔵王山は、熊野岳や刈田岳、地蔵岳など山々の総称。小学校社会科が専門の渋谷光夫東北文教大客員教授は「県民の9割5分は『さん』と読み、『ざん』に違和感を覚える。地名は文化財で、土地に刻まれた歴史。おろそかにしたくない」と力を込める。渋谷客員教授によると、「蔵王山」は県内8小中学校の校歌の歌詞に使われ、いずれも「ざおうさん」と読む。角川書店平凡社の地名辞典でも「ざおうさん」と読みを記し、宮城県でも「さん」と読む人が多いという。

 渋谷客員教授の講話を聞いた、蔵王二中の生徒会長で2年の斉藤凜さん(13)は「今からでも『さん』に改名できる。一体となって呼び掛けることが大事」と本紙投稿欄に意見を寄せた。紙面を読んだ蔵王温泉観光協会から同校に連絡があり「協会としても改名に取り組んでいきたい」と協力を申し出たという。蔵王三小・蔵王二中の校歌は歌人・結城哀草果(山形市出身)が作詞し、児童生徒は「ざおうさん」と愛着を持って歌い継いできた。地元・蔵王を大切に考え、歴史や魅力を学んでいるからこそ、改名を願う。斉藤さんは「『ざん』には違和感しか感じない。改名に向けて自分たちが何ができるか考えたい」と語った。

 山形市は先月、蔵王山の関係自治体が集まる火山防災協議会で改称について話題を提供した。「市民からの声もあり、『さん』に変えてほしいという思いがある。だが、宮城では『ざん』と呼ぶという話も聞いた」と悩ましい胸の内を明かす。今後、歴史の専門家や住民の話を聞き、関係自治体と協議するなどして「時間をかけて、みんなが納得して合意できる方法を探りたい」としている。

 国土地理院の表記を市民の声で変更させた例が県内にある。尾花沢市の「翁山(おきなさん)」だ。地元では長らく「翁山」と呼ばれ親しまれてきたが、地図には「翁峠(おきなとうげ)」と記載されていた。市と最上町で協議した後、それぞれが国土地理院に改名を申請し、13年に表記を変えることができた。市総合政策課によると、昨年制定された「山の日」に合わせ、市内の山「御堂森」の位置変更を申請した。誤った山に「御堂森」と表記されていたためで、昨年6月ごろに申請、変更は8月の山の日に間に合った。

国土地理院「地元合意あれば可能」
 改名の可否について、国土地理院は「地元の市町村の合意があれば、いつでも変えることはできる」と回答。地名を決める際は「地元でどう呼ばれているか」を一番重要視し、「『地域によって呼び名が違う』という例は全国にある。関連する全ての市町から申請があれば改名は可能だが、合意がないと現在の地名は変えにくい」としている。
http://yamagata-np.jp/news/201702/11/kj_2017021100282.php

さて、「蔵王」は蔵王権現に由来する。Wikipediaで「宮城県側では蔵王権現山形県側では熊野権現に由来する名称が用いられてきた」と書かれているが、蔵王権現を祀った宗教施設は全て宮城県側にあるのだった。現在の「刈田嶺神社*2。但し、明治期の神仏分離以来、蔵王権現は祀られていない。宮城県側には「金峰山蔵王寺」という寺があるが、蔵王権現は祀っていないようである*3山形県側には「蔵王山神社」があるが、「蔵王山神社」という名前になったのは1952年であり、それまでは「熊野神社」と呼ばれていた。また、過去に祀られていたのは蔵王権現ではなく熊野権現白山権現神道化された現在の祭神は須佐之男命。「蔵王山」に蔵王権現は不在なのでは?
蔵王権現役行者が感得した日本独自の仏で、「修験道の本尊」とされる。鈴木正崇『山岳信仰*4から引用してみる;

(前略)奈良西大寺蔵『吉野曼荼羅』(南北朝時代)には、積み重なる山々を背景に中央に蔵王権現が描かれている。顔面三目、牙を出して、逆髪、頭上に三鈷冠、剣印を結び、右手に三鈷杵、左脚は磐座を踏み、右脚は虚空に踊る。体は青黒という、魔障降伏の忿怒尊である。像容は儀軌(密教の儀式軌則)にはないが、密教明王部の金剛童子像に類似している。(後略)(pp.74-75)
山岳信仰 - 日本文化の根底を探る (中公新書)

山岳信仰 - 日本文化の根底を探る (中公新書)

See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150409/1428557746 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150415/1429066617