Eno's reflection

ブライアン・イーノ*1の新譜Reflectionが元旦にリリースされている*2。それとともに、イーノが発した年頭のメッセージ*3が話題になっているようだ。
『NME JAPAN』の「ブライアン・イーノ、新年のメッセージの日本語訳が公開に」という記事*4から一部引用してみる;


2016年は、確かに荒れた1年だった。だがそれは、長い衰退の“始まり”ではなく、“終わり”なのではなかろうか。あるいは少なくとも、終わりの始まりではないだろうか……。というのも、我々はこれまでの40年間、ずっと退潮にあり、緩やかな非文明化が進行していたにもかかわらず、現在まではっきりそうとは気づいていなかっただけなのではないかと思うからだ。緩やかに温度の上がっていく鍋の水に入れられた“茹でガエルの法則”が、私の頭をよぎる。

この衰退に伴うのが、安定した雇用から不安定な雇用への移行、労働組合の消滅及び労働者の権利の縮小、ゼロ時間契約労働、地方自治体の解体、公共医療サービスの破綻、無意味な試験結果や成績表に支配される資金不足の教育制度、移民に責任を被せるレッテル貼りの容認化、安直なナショナリズム、そしてソーシャル・メディアやインターネットによって可能になった偏見の集中だ。

非文明化に向けたこの一連の変化は、社会的寛容を嘲笑い、一種の正当な利己主義を擁護していたあるイデオロギーから生じた。(サッチャー元首相曰く『貧困に陥るのは人格に欠陥があるから』。アイン・ランド曰く『利他主義は有害である』)。抑制なき個人主義を重要視することには、二つの作用があった。一つが莫大な富の創出。もう一つがその富の、より少数の者への集中化だ。現在、全世界の上位62人の富豪が所有する資産が、下位50%の人々の全資産の合計を上回っている。こういった富はいずれ全て“トリクルダウン”(=滴り落ち)し、残りの人々全てを経済的に潤すことになるだろうという、サッチャーレーガン体制の幻想は実現していない。実際には、その逆の現象が起きているのだ。大多数の人の実質賃金は、少なくとも20年間にわたって減少していると同時に、将来の見通しは――そしてその子供達世代の将来性は――ますます不透明になってきている。人々が憤り、旧態依然とした政府に背を向け、他所に解決策を求めるようになっているのも不思議ではない。誰であれ最も金を持っている者に政府が最大の配慮をしている一方で、現在我々が 目の当たりにしている甚大な富の不平等が、民主主義の理念を水泡に帰さしめているのだ。ジョージ・モンビオットが「ペンは剣より強いかもしれないが、財布はペンよりも更に強い」と言った通りである。

昨年、人々はこのことに気づき始めた。多くの人々が、憤り、手近にあるドナルド・トランプ的な対象を掴み、それで支配者層の頭を殴りつけた。だがそれは、最も派手に人目を引く、メディア的に美味しい覚醒でしかなかった。その一方で、地味ではあるが、同じくらい強力な目覚めもあった。民主主義の意味とは何か、社会の意味とは何か、そしてそれらを再び機能させるためにはどうすればよいか、人々が考え直しているということ。人々は真剣に知恵を絞っており、そして最も重要なことに、声に出しながら共に考えている。2016年、私達は集団的な幻滅を経験し、幻想から覚め、ようやく鍋から飛び出す時が来たことを悟ったのだと思う。

取り敢えずアイン・ランド*5が名指されていることに注目した。
See also


ブライアン・イーノ、新年のメッセージを公開」http://www.ro69.jp/news/detail/154415
Colin Marshall “Stream Brian Eno’s “Magnificently Peaceful” New Album Reflection: A Thoughtful Way to Start 2017” http://www.openculture.com/2017/01/stream-brian-enos-reflection.html
Jon Blistein “Read Brian Eno's Sobering 2016 Recap, 2017 Call to Action” http://www.rollingstone.com/music/news/read-brian-enos-sobering-2016-recap-2017-call-to-action-w458691
Samantha Maine “Brian Eno shares New Year’s Day message, urges public to push for equality” http://www.nme.com/news/music/brian-eno-new-years-day-message-1930038

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050713 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050820 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060920/1158772755 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061113/1163428139 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070709/1183951338 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071013/1192258586 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20071230/1199002440 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080520/1211288624 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080821/1219335534 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081020/1224469273 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090309/1236622473 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091014/1255553835 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091220/1261293566 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100202/1265134898 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100203/1265213985 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100303/1267615922 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100824/1282669857 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110821/1313928238 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130318/1363611243 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131007/1381157912 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131028/1382925103 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131218/1387378203 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160111/1452529920 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160429/1461947709 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160525/1464142887 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160626/1466955648

*2:See eg. http://www.brian-eno.net/ Lars Gredal “Brian Eno New Album Reflection Released 1st January 2017” http://www.enoshop.co.uk/brianenonewalbumreflection

*3:https://www.facebook.com/brianenomusic/posts/1543156529031866 http://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Brian-Eno/BRC-538/

*4:http://nme-jp.com/news/31823/

*5:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091026/1256574276 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20161227/1482857738