急場を凌ぐ?

『日刊スポーツ』が掲載した共同通信の記事;


キューバ債務ラム酒百年分で返済提案 チェコ財務省
[2016年12月17日0時1分]


 チェコ財務省は15日、キューバが冷戦時代の債務2億7600万ドル(約317億4000万円)を自国名産のラム酒で支払うことを提案したと明らかにした。AP通信などが伝えた。

 チェコが提案をのめば、現在の輸入量換算で100年以上にわたってラム酒を受け取ることになる。

 チェコは旧チェコスロバキアの時代にキューバと同じ社会主義国だった。キューバは現在、債務返済の資金がないとされる。チェコ財務省の報道官は少なくとも一部は現金で支払ってほしいと述べた。

 チェコキューバから年間200万ドル超に相当するラム酒を輸入している。(共同)
http://www.nikkansports.com/general/news/1752870.html

キューバだったらラム酒よりも葉巻の方がいい! という人もチェコにはいる筈だ。仏蘭西がデフォルトに陥ったらロマネ・コンティで支払うのだろうか。日本だったら?
チェコ社会への影響としては、ラム酒の価格が下がって、アルコール依存症のリスクが上がるということがあるのでは? ただ、ラム酒は洋菓子にも使うので、原材料費が下がり、チェコのお菓子業界が活性化するということもあるのでは?
ラム酒」については、金井美恵子先生のテクスト「夏風邪は馬鹿がひく」(in 『目白雑録』)*1をマークしておく。曰く、

それにしても、夏風邪というのはいやなもので、やはり風邪は寒い時にひくべきものだろう。冬だったら、とりあえず風邪には様々な対応が用意されていて、そのなかでも基本的なのは、ひきはじめの時に、各種の体を温める飲物のメニューから好みの物を選んで、それを飲み、かつ各種のサプリメントを多目に飲んでフトンにもぐり、ぬくぬく休息しながら、肩の凝らない本を読む、というのが一番いいのだが、それでもこじらせてしまうことがあるのが風邪というもので、咳が二週間くらいおさまらず腹部の筋肉が痛くなっても、まあ、あきらめもするし、温かい飲み物のメニューの豊富さを楽しむ余裕も、ないわけではない。シンプルなくず湯もいいし、さらしネギをたっぷり入れたチキン・スープ(白くにごっている博多の水たきのスープ風がよろし)も、何種類かのスパイスとレモン果汁を入れたホット・ワインもおいしいし、どれにしようかてなもので、ラムとブランデーにレモン果汁と砂糖を入れて熱湯で割り、それにバターを落とす場合もある「グロッグ」というのもあるけれど、これはフローベールの『紋切型辞典』によれば「下品な飲み物」ということになっていたな、などと思い出すゆとりさえあるのだ(まあ、今も思い出しているわけだが)。なぜ、グロッグが下品な飲み物なのかは知らないが、『紋切型辞典』についてフローベールはルイーズ・コレあての手紙の中で、〈およそありうるすべての題目について、礼儀をわきまえた慇懃な人物となるために世間で口にしなければならぬすべての言葉をアルファベット順に網羅する〉ものであって、〈端から端まで僕が勝手に創作した言葉は一語といえどもあってはならず、いったんこれを読んだら、人はそのなかの文句がおのずと口に出るのを恐れるあまり、話をすることもできなくなる体のものにしなければなりません〉(山口欝*2訳)と書いているとおりで、『紋切型辞典』(と『ブヴァールとペキシェ』)を読んで以来、「グロッグ」と言えば「下品な飲み物」というのが、怖るべし、つい口にのぼってしまうのである。「ラム」というお酒は、もちろん上品なイメージがあるわけではないし、値段の安い駄菓子系洋菓子にマーガリンと一緒に使われていると、実に下品で粗野な感じがするものけれども、目白の洋酒屋にはボトル一本二万円のジャマイカラム酒が売っていて、これを飲めば、今までのラム酒観が一変することが確かなのでは? と思うけれど二万円でラムを買う気には、なれない、し、何年に撮られた映画だったのか調べるのが面倒なのだが、かれこれ四十年は前の『シベールの日曜日』(もちろん、フランス映画。ちょっとしたヒット作)で、みなし子の十二歳くらいの女の子と記憶喪失のパイロットだかの純粋な恋愛が周囲の下卑た大人たちに邪魔される悲劇で、その中に「グロッグ」を飲むシーンがあって、この映画のことを考えると「下品な飲み物」というのは確かにふさわしい、と思える、などと考えながら、冬だったら、ジョン・フォードの『太陽は光り輝く』をヴィデオで見ることを思いついたりもするだろうに、夏風邪の場合は、そもそも体を温める飲み物のことなどは考えたくもないし、エドワード・ヒックスにつづいて、一九五〇年代から今日にいたるまで、大胆なインスタレーションとエンヴァイラメント作品を作りつづけているアメリカのアーティスト、エドワード・キンホルツのことを書かなければならないのだ。(pp.184-186)
目白雑録 (朝日文庫 か 30-2)

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ブヴァールとペキュシェ (上) (岩波文庫)

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