加齢とネット(鳥越から遠く離れて)

鳥越俊太郎さんか*1
『ハフィントン・ポスト』の鳥越俊太郎インタヴュー*2、怖くてまだ読んでいない(笑)。ところで、熊代亨akaシロクマ氏*3はこのインタヴューを「とても悲しいインタビューだった」と言い、


「すっかり年を取ってすっかり変わってしまった鳥越さんを眺めながら考えていたこと」http://www.huffingtonpost.jp/toru-kumashiro/pens-power_b_11490176.html


というエントリーを書いている。
鳥越問題からちょっと離れて、加齢による認知機能の衰えとネットについて語られている箇所を切り取っておく;


私には、鳥越さんが残念なことになっていくプロセスが他人事とは思えない。
 
私はブログ愛好家だから、自分が二十年後もインターネットをやりたがるのは容易に想像できる。この文章をお読みになっている人達だって、その頃にはtwitterFacebookは使っていないかもしれないが、なんらかのネットメディアを利用している可能性は高い。
 
二十年後も心身健康でいられる人は、きっと二十年後も元気にインターネットをやっているだろう。だが、健康の曲がり角を迎えて心身が衰弱した状態に陥っていたら? あるいは認知症と診断される寸前の状態だったとしたら? 思考力や判断力や羞恥心の衰えた言動を、ネットメディア上にばらまいてしまうのではないだろうか。
 
「私は鳥越さんと違って有名じゃないから関係ない」と反論する人もいるかもしれないが、そうとも限らない。ネット炎上で社会的信用を失った無名の人達のことを思い出してみて欲しい。彼らはまったく無名だったのに、ネットメディア上で“やらかして”“一発KO”していたではないか。
 
心身や判断力の衰えとネットメディアの組み合わせは、それ以外の危険もエスカレートさせる。個人情報丸出しの写真や動画を投稿してしまうリスク、フィッシング詐欺や悪質セミナーに引っかかってしまうリスク、家庭の外に出してはいけない話をうっかり喋ってしまうリスクetc……。

若い頃、そういったリスクを悠々と回避できていた人でも、加齢や疾病によって脳の機能が弱っている時にはそうとも限らなくなる。家族や親しい人を喪失し、孤独に直面した時などは、特にそうだろう。心身が弱ってタガが緩んだその瞬間、インターネットの“事故”は起こる。

認知機能に衰えを感じた人が運転免許証を返上するのと同じように、ネットアカウントを返上するような判断が、これからの高齢化社会には必要になってくるのではないだろうか。
 
私自身も、健康にあまり自信が無く、あまり長生きできそうに無いから、インターネットから身を引くタイミング、あるいはせめて、インターネットへのアウトプットを制限するタイミングを考えなければならないと思う。

私はまだ四十代だから、二十年後もどうにかインターネットが出来ていると信じたいが、自分より年上のメディア人士の姿を眺めるに、二十年後の私は今以上に自制を利かせなければ危ないはずである。幾ばくかの心身の疾病が加われば“事故る”確率はかなり高くなるだろう。
 
あと二十年もすれば、インターネットのアクティブユーザーは今よりもずっと高齢化して、その高齢化にふさわしいいろいろな問題が浮上してくるだろう。みんながみんな健康なまま年を取っていれば万々歳だが、そうなるとは思えない。

ネット炎上の年齢層は、若者アカウントから年配アカウントに大きくシフトし、ネットを使った詐欺や悪質商売のターゲットも、若者から年配者へいよいよシフトしていくと思われる。

高齢者のネット参入が増えるとともに、ここで述べられているような「事故」発生のリスクが上昇するというのは考えられることだ。でも、「認知機能に衰えを感じた人が運転免許証を返上するのと同じように、ネットアカウントを返上する」ということだけど、そんなことしたら、「衰え」はさらに悪化するだけだと思う。寝たきりになってしまえば、立つとか歩くとかいった筋肉の機能は急激に劣化してしまう。「認知機能」についても同様だろう。私たちが社会的な存在であるということの含意には、私たちが他者の振る舞いを意識したり参照したり反応したりするという仕方で自らの存在を整えるということがある。私たちの存在の輪郭は(私と同様に心をもつとされる)他者を意識したり参照したりしながら維持されるわけだ。ネットからの撤退というのは私にとっての他者の削減であり、それによって、私の輪郭の維持はさらに困難になることが想像される。高齢者における「認知機能」の「衰え」だけど、勿論生物学的な意味での老化の効果ということは否定できないけれど、それとともに高齢者の社会性の変容、例えば職業からの撤退や近親者との死別や離別による社会関係の狭隘化も大きな役割をはたしているだろうと思う*4。ネットからの撤退はその狭隘化をさらに昂進させる。
ところで、準身内からの鳥越批判として、


中妻じょうた「鳥越俊太郎「ネットはしょせん裏社会」。なるほど落選するわけですね。」http://www.huffingtonpost.jp/jouta-nakatsuma/torigoe-web_b_11449570.html


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