「雰囲気デフレ」(メモ)

岸政彦*1「雰囲気デフレ効果」『毎日新聞』2016年5月2日夕刊


曰く、


大学でも、鉛筆1本、クリップ1個の使途をいちいち書類で出さないといけないようになった。不正も多かったから仕方ないのだが、それにしてもこういう「業務のための業務」が本来の研究のための時間と労力をどんどん奪っていることも事実で、社会全体からみれば結果的に大きな非効率になっている。ある大学には、学会出張をした証拠として、会場に居合わせた他大学の参加者2名からサインをもらってこいという規則があるらしく、こうなるともう子供扱いである。
社会全体がギスギスしてくるとどうなるかというと、たとえば「おもしろいこと」や「おもしろいもの」がどんどん減っていくことになる。最近、昔のようにヒマなときに家電量販店をぶらぶらすることもなくなってきた。何も欲しいものが売っていないからだ。日本映画もずいぶん観ていない。観れば素晴らしい作品もたくさんあると思うけど、観たいなという気持ちが起きない。
おもしろい製品や映画をつくる、あるいはおもしろい人生を生きるということは、大きなリスクをともなう。雰囲気デフレの社会では、そういうリスクを誰も取ろうとしなくなる。こうやって社会からおもしろいものがどんどん減っていくのだ。
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hicksian「田中秀臣著『不謹慎な経済学』」http://d.hatena.ne.jp/Hicksian/20080225#1203955506
田中秀臣「貨幣カルト性とネット蝗」http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20080226#p2 *2