羅典ではない「ラテンアメリカ」

ラテンアメリカ (地域からの世界史)

ラテンアメリカ (地域からの世界史)

大井邦明、加茂雄三「序説」(in 大井邦明、加茂雄三『ラテンアメリカ』[地域からの世界史16]、pp.3-16)


少しメモ;


今日、一般にラテンアメリカと呼ばれている地域は、西半球に位置する南北アメリカ大陸のうちで、北アメリカ大陸の一部であるメキシコと、中央アメリカの地峡地帯、南アメリカ大陸、それにカリブ海の島々を合わせた地域のことを指し、この地域には、三十三の独立国(一九九二年一〇月現在)といまだ欧米諸国に属する地域があるが、このうち、カリブ海とそれに接する大陸の周縁部にある、ジャマイカ、バルバドス、ガイアナスリナムベリーズその他の国々は、一九六〇年代以降にイギリスやオランダの植民地が独立したものであって、厳密にいうとラテン系の国々ではない。これらの国々は、非ラテン系カリブ海諸国とも呼ばれていて、その数は十三に達している。
しかし、カリブ海地域では、ラテン系諸国(キューバ、ハイチ、ドミニカ共和国)や非ラテン系諸国にかかわりなく、多くが小さな島国国家である点や、奴隷制砂糖プランテーション植民地の歴史を共通に体験している点、少数の白人と多数派のアフリカ系黒人、混血、さらにはインド系人などで成る人種的階層社会をなしている点、人種差別の歴史をもつなど、多くの地理的・歴史的共通点が存在していて、地域として一つの固有な世界を形成している。そのため、最近では、この地域をラテンアメリカのなかに含めず「ラテンアメリカカリブ海」というように分けて表現する傾向が強い。(pp.3-4)

(前略)三百年以上にわたったスペイン、ポルトガルの植民地時代を通じて、スペイン領はインディアス、ポルトガル領はブラジル*1、さらに南北アメリカの地域がアメリカと称されていた。独立後は旧スペイン領はイスパノアメリカ、旧スペイン領と旧ポルトガル領を合わせたものがイベロアメリカ(イベリア半島のスペイン、ポルトガル系のアメリカの意)と呼ばれるようになり、これらの呼称は今日でも用いられている。(pp.4-5)

ところで、この地域をラテンアメリカと呼ぶようになったのは十九世紀半ば以降のことで、その名付け親はフランス人である。一八六〇年代初め、ナポレオン三世治下のフランスがメキシコに侵略して、その影響力を拡大しようとしたとき、フランス人は、スペイン、ポルトガルの影響力が支配的であったこの地域にフランスが加わることを正当化しようとして、イスパノアメリカやイベロアメリカよりも広い概念であるラテンアメリカと呼んだのであった。この呼称は、当時フランス文化を羨望していたこの地域の知識人の間で受け入れられ、二〇世紀に入って次第に広まり、定着していった。(p.5)

*1:See 川田順造『「悲しき熱帯」の記憶』[See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120518/1337355865