保存されなかった精子

『朝日』の記事;


2人分の精子凍結保存、了承得ず中止 大阪の病院
朝日新聞デジタル 5月20日(水)5時24分配信


 大阪市総合医療センター(大阪市都島区)が、患者2人の了承を得ずに精子の凍結保存を中止していたことが朝日新聞の調べでわかった。不妊治療で精子を使おうとした患者の問い合わせで発覚した。病院側は1人に謝罪したが、別の1人には別病院に精子を移すよう求めていたとして、問題ないとの見解を示した。

 保存を打ち切られたのは大阪府奈良県の30代の男性2人。大阪の男性によると、精子をつくる機能に悪影響が懸念される放射線治療などのため、2003年12月にあらかじめ精子を凍結保存した。奈良の男性は04年11月に凍結保存した。

 同病院によると、12年4月に責任者の婦人科副部長が別病院に異動。その時点で計13人分の精子を無償で凍結保存していたが、昨年9月ごろ、元副部長の指示で凍結保存のための液体窒素の補充が打ち切られた。

 元副部長によると、12年4月の異動時に「1年をめどに患者の意向を確認してほしい」と口頭で看護師に依頼していたため、保管期限が13年3月末までということが患者にも伝わっていると思い込んだという。液体窒素の補充をしていた医師も、患者の了承が得られているか確認しなかった。

 今年4月、精子を使おうとした大阪の男性が同病院に問い合わせて凍結保存の中止が発覚。病院側が調べたところ、13人中6人については元副部長が事前に了承を得ており、3人は死亡していた。別の2人には「1年ごとに意思表示をしなければ廃棄する」と書いた文書を渡していた記録が見つかった。

 しかし、大阪と奈良の2人には了承を得ていなかった。奈良の男性には今月15日に電話で謝罪したという。大阪の男性については、13年3月末までに別病院に精子を移すよう、12年の受診時に依頼していたとして、問題ないとの見解を示している。男性は「勝手に廃棄することはないと説明された」と主張しているが病院側は否定している。

 保存容器は現在も病院内にあるが、内部の精子の機能は失われているという。(藤田遼、西村圭史)


■説明不十分だった

 〈大阪市総合医療センターの瀧藤伸英病院長の話〉 大阪の男性については、凍結保存継続の意思表明がなかったので保管をやめた。他の病院に移管するよう伝えていたので対応に問題はない。言葉がなくても、移管をお願いした期限より先は保証できないという意思があった。その意味を患者が受け取れたかは何とも言えない。説明が不十分だったことは否めず、文書も示して説明すべきだった。奈良の男性には謝罪した。結果的に男性は精子を使う予定がなかったが、そうでなければ取り返しのつかないことになっていたと思う。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150520-00000006-asahi-soci


凍結精子失い、妻は泣き崩れた 病院が無断で保存中止
朝日新聞デジタル 5月20日(水)5時31分配信


 不妊治療を手がけていた大阪市総合医療センターで、患者の知らないうちに精子の凍結保存が打ち切られていた。「絶対に子どもがほしい」。そう願っていた妻は、夫からその事実を知らされて、泣き崩れた。


 大阪府池田市の会社員、北村哲也さん(30)は2003年、同病院で血液の病気の骨髄異形成症候群と診断された。当時は18歳。治療のために放射線治療を受け、抗がん剤を服用することになった。副作用で精子のもとになる細胞がなくなる恐れがあったため、両親や医師の勧めで03年12月に精子を凍結保存した。保管費用は無償だった。

 9年後の12年12月、交際していた現在の妻(28)と同病院を訪れた。北村さんは「子どもが自分と同じ病気になるかもしれない」と子どもについては消極的だったが、「女性に生まれた以上、絶対に子どもが欲しい」と説得され、「父親になりたい」と考えるようになっていた。

 診察室では、産科部長から「凍結精子は保管されています」と説明を受けた。ただ、「専門の医師が異動したので、病院としては不妊治療ができなくなりました。できるだけ早く、別の病院に移管してほしい」と告げられたという。

 「すぐに移管先を見つけるのは無理かもしれないので、それまで管理してもらえますか」と尋ねると、産科部長は「勝手に破棄することは100%ない」と言ったという。この点について病院側は否定している。産科部長によると、13年3月末までに移すよう求めた上で、「期限が来たらピタッとやめるわけじゃない、とは言った」という。

 「結婚するまで、置かせてもらおう」。そう話した2人は、今年1月に結婚した。凍結精子を移せるクリニックを見つけ、4月に同病院に問い合わせた。翌日、職員から電話があった。「移管をお願いしていたが返事がなく、管理が行き届かない状況になった。使用に関して医学的には担保できません」

 「あかんて」。北村さんが事情を伝えると、妻は泣き崩れた。「あかんてどういう意味? 何でなん?」

 4月25日、北村さんは副院長をはじめ医師4人と職員1人に面会した。電子カルテには「12年度中(13年3月末まで)の移管をお願いした」と書かれていた。ただ、期限を過ぎれば廃棄するとの記載はなく、書面による説明や同意書の作成記録もなかった。

 医師たちは「連絡がなかった。病院に責任はない」と謝罪にも応じなかった。北村さんは「大きな病院でちゃんと管理してもらえると信じていた」と話し、病院側の謝罪を求めている。

 凍結精子を移す予定だったクリニックの診断で、北村さんの今の精子は動いていないことがわかっている。今後、手術で精巣を開き、精子のもとになる細胞が残っているかを確かめる予定だ。精子が見つかる可能性は30%前後だという。(藤田遼)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150520-00000007-asahi-soci

生殖機能喪失のリスクがある癌治療を受ける人が自らの精子を凍結保存するというのはよくあることなのだね。教訓は、「口頭」でのコミュニケーションは一切信用してはならないということ? 裁判沙汰になった場合、挙証責任はどちら側にあるのだろうか。病院側か患者側か。それにしても、医師1人が異動しただけで、「凍結保存」ができなくなるというのは凄い組織のあり方だ。こういうことは、大阪都*1になれば、起こらないというのだろうか(笑)。まあ、別の病院を探せということだけど、完全に病院側の都合によるものなので、病院側の責任で代替の保存場所を探すのは筋なのでは? とも思う。