「みなしご」(メモ)

赤坂真理『愛と暴力の戦後とその後』*1は取り留めのない本であるが、著者の危機意識だけはひしひしと伝わってくる。また、その危機意識に裏打ちされた魅力的な断片が鏤められているといえる。
少しメモ。


近代日本文化史の研究者である鈴木貴宇*2は、戦後の超人気のラジオドラマ『君の名は』*3を、親や親族から離れてカップルだけで世帯を持つ核家族化への欲求であり、それへの誘導であったとする。『君の名は』の主人公たちには、戦争によって、「都合よく」係累がいない。そして恋愛によって二人だけの世界をつくって郊外へと行く。ロマンティック・ラブ神話と郊外化の始まりである。
戦争で係累をなくすことは、戦後の表現作品において三通りに変奏されたように私には感じられる。
ひとつは、今言った「恋愛オンリーもの」、これは八〇年代に流行した「トレンディドラマ」を用意する。
二つ目は「任侠もの(ヤクザ映画)」。孤児や浮浪児が大量に出ても、政府はまともな政策を打たなかった。しかし、見ないふりをすれば孤児がいなくなるわけではない。彼らはどこかで肩を寄せ合う必要があった。それが「義兄弟の契り」などという、家族を模した裏集団と、そういう絆への「わかる」というシンパシーだったのではないか。
三つ目は、子供向けアニメなどに見られた「みなしごもの」である。七〇年代の漫画やアニメには、みなしごが主人公のものが数多くあった。それのいちばん有名な例は『タイガーマスク*4だろう。みなしごが悪のプロレス養成機関に育てられるが正しいほうへと転向し、稼いだお金を孤児院に匿名で寄付し続ける、という話だ。それの模倣犯(?)が、近年でもいる。「タイガーマスク」の名で*5孤児院や児童施設に、お金やランドセルなどを寄付するのである。(pp.142-143)
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さらに、『科学忍者隊ガッチャマン』が言及される(p.143ff.)。曰く、

(前略)男四人女一人の少年少女からなる科学忍者隊は、一人を除いてみなしごで、疑似家族のように寄り合って暮らし、天才科学者南部博士のもとで、地球の平和を守るために働いて(働かされて?)いる。科学忍者隊を、陰に日向に助ける謎の存在にレッドインパルスという謎の戦闘機集団がいるが、その隊長は、実は主人公ケンの生き別れた父親である。。が、地球のために戦う息子の士気を削ぐまいとしてか、名乗らない。親子の名乗りを上げるのは、レッドインパルスの隊長が、地球の決定的危機を救うために自己犠牲的な自爆ミッションに出る時である……。
「みなしご」「疑似家族(任侠道に通じる)」「持たざる者の戦い」「捨て身の攻撃」「特攻」と、先の大戦の負の要素と遺産をすべて、昇華するかの作品であった。これも一九七二年に放映が始まった。(p.144)
「みなしご」といえば、どうしても『八犬伝』を挙げなければならない。特にNHKの人形劇『新八犬伝』は放映時期も『ガッチャマン』と一部は重なっていた筈*6。また、1970年代の「みなしご」として挙げておきたいのは、「昭和ブルース」というか『非情のライセンス』の会田警部補(天知茂*7。また、積極的に「戦争で係累をなくすこと」、戦争を口実に過去の自己を抹消してしまうこと、それは『砂の器*8
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