「生理中」(メモ)

女と男のかんけい学

女と男のかんけい学

上野千鶴子*1「女性学とは何か」(in 山村嘉己、大越愛子編『女と男のかんけい学』明石書店、1986、pp.1-23)


曰く、


ナポレオン治下に整備されたナポレオン法典は、近代法の原点と言われているが、その中にもお性差別がはっきり表われている。同じ犯罪を犯しても身分や地位によって罪の重さがちがうことを「差別刑罰」と言うが、ナポレオン法典の中には女性に対する保護のすがたを借りた性「差別刑罰」規定がある。ナポレオン法典によれば、月経中の女性が犯した窃盗は、罪に問われない。月経中の女性が罪に問われないのは、女性保護のためではなくて、この期間の女性が、理性を欠きセルフコントロールを失い、責任能力を持たないと考えられるからである。街角の八百屋からリンゴをくわえて逃げたイヌを、誰も法律で罰することはできない。月経中の女性は責任能力がない点で、ヒトではなく動物なみと見なされる。この考え方が、保護の見かけをとった差別であることは明らかである。(略)月経期間中の女に責任能力を認めないという「差別刑罰」は、月経を持った女のような生きものを一人前の人間とは認めない、という「女性差別」に容易につながる。それどころかそういう差別的な女性観を前提に、成り立っていると言える。(p.3)
上野さんはさらに註において、

(前略)通俗道徳の中では、月経中の女の軽犯罪が免責されるという傾向は、今でも生きている。万引きした少女は、警備員に対して「いま生理中なの」と言い張れば、お目こぼしにあずかるのである。(p.21、註2)
と述べている。「万引き」して「 いま生理中なの」と言い訳して勘弁してもらうというのは都市伝説だと思っていたのだが、実際にそれで「お目こぼしにあずかる」ということはしばしばある(あった)ものなのだろうか。

永畑道子『世紀末大家族』(国土社、1992)という本からちょっとメモ;


一九三九(昭和十四)年の秋九月、厚生省は「結婚鉄則」の制定案を発表した。
「優秀家系の調査を広く全国に求める。健康で優れた子孫を持つものどうしの結婚をすすめ、結婚講習会を適齢期の青年男女にむけて開催する。国立結婚相談所をあらたに設けて、民族増殖の見地から、故なく産児制限を行うというものに対しては、どしどし鉄槌を加えるつもりである」
「西洋では恋とか愛が結婚の第一条件になっているが、民族優性(sic.)の見地からすればそんな呑気なことは第二、第三の問題だ。結婚を政府が管理することになれば、恋は御法度ということになろう」
当時の優生課長の談話である。日本では一夫婦四人は生めと、厚生省は提案した。優秀な種の結婚をすすめ、劣った種は断種する。ナチスそのままの考えであった。(後略)(p.115)
世紀末家族―ちちははの海はどこへ

世紀末家族―ちちははの海はどこへ

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050523 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050619 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060112/1137080760 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060117/1137460875 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060124/1138066353 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060202/1138898806 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060208/1139371656 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060209/1139452644 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060219/1140364435 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060312/1142190612 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060912/1158067383 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070422/1177265280 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070606/1181094168 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080622/1214156698 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080718/1216350252 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080825/1219599350 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090108/1231428497 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090716/1247679249 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090917/1253198544 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091118/1258573653 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091127/1259334346 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100105/1262664650 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101118/1290096150 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101124/1290623454 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110118/1295373044 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110202/1296628031 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110205/1296875307 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110208/1297142653 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110215/1297745581 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110331/1301545326 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110403/1301824791 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120309/1331261141 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131218/1387381317