中島義道/ニーチェ


ブームに喝! 「本当は危険なニーチェ」 哲学者・中島義道さんが異論 (1/3ページ)

2013.6.10 10:28


「神は死んだ」との宣言で名高いドイツの哲学者ニーチェ(1844〜1900年)。名言集が大ベストセラーになるなどブームが続いている。だが、このブームに対し「彼の哲学を消毒し、砂糖をまぶしたようなもの」と異論を唱えるのが『ニーチェニヒリズムを生きる』(河出書房新社)を刊行した哲学者、中島義道さん(66)。中島さんが語る「本当は危険なニーチェ」とは−。(磨井慎吾)

 近年のニーチェ・ブームで強調されるのは、人を励まし、勇気づける人生の師としてのニーチェ。著作の抜粋を現代的に解釈・翻訳し、115万部のベストセラーとなった『超訳ニーチェの言葉』(白取春彦編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の目次を見ると、「いつも機嫌よく生きるコツ」「人を喜ばせると自分も喜べる」などの明るく前向きな言葉が並んでいる。

 だが、中島さんは「ニーチェは天才だから、その著書は色々な読み方を許す」としつつも「本当に文字通り読んだら、みんな絶望して終わり」とにべもない。

 中島さんが読み解くニーチェの本質は、苛烈だ。
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/130610/ecf1306101030002-n1.htm

ニーチェが最も言いたかったのは『弱者には生きる資格がない』ということ。ニーチェを誠実に読むならば、この主張とまず向き合わなければならない」

 人権、平等、民主主義。19世紀欧州で育まれて今に至る近代的価値を、弱者が強者に勝つための「奴隷道徳」と否定したニーチェ。弱者の群れである大衆を「畜群」と罵倒し、「神の死」やニヒリズムなどを正面から受け入れる圧倒的強さを持つ「超人」たることを掲げるのだが…。

 「でも幸いなことに、ニーチェ自身も含めて全員が弱者。ニーチェの畜群への激しい軽蔑は、全部自分に対してだと思う」

 中島さんは「多くの人が勘違いしているが、ニーチェは決して孤独の人ではない。人間臭くて案外俗物」と語る。純粋な性格で、24歳でバーゼル大教授となった大秀才だが、周囲の嫉妬もあり学者としては全く認められなかった。「彼は実人生で、とても“畜群”を蹴散らすほどの力がなかった」。44歳で狂気に陥った後、「神であるよりバーゼル大教授でありたい」と、本音を漏らしたとも取れる切ない手紙も残している。
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/130610/ecf1306101030002-n2.htm


 「ある意味、ニーチェは哲学者の純粋な形。興味の対象が、存在や意識などのものすごく普遍的な話と、俺はなぜモテないのか、みたいな卑近な問題の2つしかない。その間に社会などの中間がない」

 超人を目指し、目もくらむような哲学的高みに読者を誘いながら、時折どうしようもない人間ならではの弱さを露呈してしまう。中島さんが描き出すニーチェ像は、苛烈で毒に満ちながら、何とも人間臭く魅力的だ。

【プロフィル】中島義道

 なかじま・よしみち 昭和21年、福岡県生まれ。東大大学院人文科学研究科修士課程修了。ウィーン大学で哲学博士号取得。『カントの人間学』『うるさい日本の私』など著書多数。元電気通信大教授。現在は私塾「哲学塾カント」主宰。
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/130610/ecf1306101030002-n3.htm

カントの中島氏*1ニーチェ本を出したのか。その背景として、ニーチェ自己啓発本化、ポジティヴ教化がある、と。勿論そういう思想のトレンドについても知らなかった。
ニーチェといえば、昨年Michael TannerのNietzsche: A Very Short Introductionを読み、また最近湯山光俊『はじめて読むニーチェ』の頁を再度捲ってみたということがある。ついでに、永井均『これがニーチェだ』もここでマークしておこう。
Nietzsche: A Very Short Introduction (Very Short Introductions)

Nietzsche: A Very Short Introduction (Very Short Introductions)

はじめて読むニーチェ (新書y)

はじめて読むニーチェ (新書y)

これがニーチェだ (講談社現代新書)

これがニーチェだ (講談社現代新書)