柳田國男vs.フレイザー?

旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三 (文春文庫)

旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三 (文春文庫)

佐野眞一『旅する巨人』*1から岡正雄についてメモしようと思ったのだが、その前に(それと関連して)、柳田國男フレイザーについて。


岡が柳田に会ったのは、卒業論文を書く際、自分で翻訳して参考にしたフレイザーの『王制の呪的起源』の序文を柳田に書いてもらおうと考えていたためだった。岡は同じフレイザーの大著『金枝篇*2も、東大新人会の佐野学*3から原書で借りてすでに読んでおり、穀霊である神聖王の殺害によって王権が更新されるというフレイザーの学説は、新興のエスノロジーを目指していた岡にとって新鮮な驚きだった。
ところが柳田は、岡の申し出を言下に拒否したばかりか、出版するなら妨害するというまでの強硬な態度に出て岡を驚かせた。柳田は前年の大正十二年、国際聯盟統治委員会の委員としてヨーロッパを歴訪中、ジュネーブで直接フレイザー自身と会っており、その学説を知悉していた。当時柳田は、フレイザーの学説を穀霊の王=天皇制とする解釈の立場をとっており、その限りでいえば、フレイザーの著作の翻訳出版は危険きわまりないものに映っていた。
フレイザー問題を極力避けようとする柳田の態度は戦後もつづき、昭和二十六年、『金枝篇』が岩波文庫から翻訳出版された際、訳者の永橋卓介が相談したときも、柳田は格別の関心を示さない素ぶりをとりつづけた。(pp.151-152)
金枝篇 (1) (岩波文庫)

金枝篇 (1) (岩波文庫)

金枝篇 (2) (岩波文庫)

金枝篇 (2) (岩波文庫)

金枝篇 (3) (岩波文庫)

金枝篇 (3) (岩波文庫)

金枝篇 (4) (岩波文庫)

金枝篇 (4) (岩波文庫)

金枝篇 (5) (岩波文庫)

金枝篇 (5) (岩波文庫)

フレイザーについては、


Petri Liukkonen “Sir James (George) Frazer (1854-1941)” http://www.kirjasto.sci.fi/jfrazer.htm
Wikipedia http://en.wikipedia.org/wiki/James_George_Frazer http://en.wikipedia.org/wiki/The_Golden_Bough

また『金枝篇』の一部を含む幾つかのフレイザーのテクストはProject Gutenbergで読める*4
金枝篇』の訳者である永橋卓介について調べようとしたのだが、ネット上には殆ど情報がなかった*5。ただ検索でトップにある「『金枝篇』(岩波文庫)翻訳者 永橋卓介のこと」というエントリーによると、高知県の中村高校の校長を務めていたことがあったという*6
戦前に出たフレイザーの翻訳は『サイキス・タスク』だけ? これも永橋卓介訳だ。戦中に『サイキス・タスク』を読んで天皇制を相対化したと、丸谷才一先生は(たしか)語っている(『忠臣蔵とは何か』)。

サイキス・タスク―俗信と社会制度 (岩波文庫)

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忠臣藏とは何か (講談社文芸文庫)

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