或る「目論見の一環」(松尾貴史)

松尾貴史*1安倍氏所信表明演説 茹でガエルのような感触覚え」『毎日新聞』2016年10月2日


安倍晋三の「所信表明演説」におけるスタンディング・オヴェーション事件*2を巡って;


計画したわけではなく、若手から自然と湧き起こったと言っているけれど、もし本当だとすれば、もう自民党の中でのムードに奇妙な忠誠心が定着しているかもしれない。生活の党の小沢一郎氏が「北朝鮮中国共産党大会みたいな感じで、ますます不安を感じた」と言っていたが、私は昔のドキュメンタリー映画で見た何とかユーゲントのような集団の興奮状態に似たものを感じて寒気がした。あれだけ大勢の自民党議員が、皆同じ方向を向いていることの気色悪さに、自覚症状はないのだろうか。「自民党は幅広い」と言っていた時代は、とっくの昔に終わってしまっているのか。
社会のために必死で働いている人は安倍氏の部下である海上保安官、警察官、自衛官だけではない。全国の農業従事者、医師、看護師、介護福祉士、療法士、原発作業員、科学者、保育士、その他、辛い現場の仕事をギリギリのところでこなして社会貢献している人は数多いる。そして、どんな職業の人でも、法を守って納税して社会のために貢献している。敬意を表すなら、日本国民全体に表して欲しいものだ。せせこましいことを言わせて貰えば、国会議員の給料は私たちが出していることを忘れないで欲しい。今回のパフォーマンスは、「国家のために命を提供することも辞さない職業」に対して、優位に評価する価値基準を定着させようという目論見の一環であるとも感じられる。そして、この30分以上ある演説の中で、弱者が虐待、虐殺されるような社会問題には一切触れられていない。
また、「憲法改定」問題について;

今回の所信表明演説では、憲法改正についての言及がさらに踏み込んだ表現で行われた。茹でガエルのように、この動きについてじわじわと慣らされていく感触を禁じ得ない。憲法を変えること自体については賛成でも反対でもないが、少なくとも秘密保護法や「戦争法」と呼ばれる安保体制の強引な進め方、集団的自衛権解釈改憲など恣にし、「新・共謀罪」も創設を画策している現政権のもとでは、絶対に御免こうむりたい。現行の日本国憲法と、自民党が出している草案を並べて読んだ方もおられると思うが、どうして憲法の質を低下させることが、どうして改正だと思えるのか、不思議で仕方がない。(後略)
ところで、「若手から自然と湧き起こった」というわけではなかったようだ。仕掛人萩生田光一*3だったようだ。但し、曖昧な指令*4。まあそれでも、暴走を誘発するような空気はあった(ある)のだろう。