『紅楼夢』とエディプス(メモ)

顧明棟「孝順情結――中国文化語境中的俄狄浦斯」in 『原創的焦慮――語言、文学、文化研究的多元途径』*1、pp.191-213


この中で顧明棟氏は、中国文化(儒教文化)はヨーロッパ文化と同様に強固な家父長制を有しているにも拘わらず、エディプス・コンプレックス(「俄狄浦斯情結」)がストレートに表現されることは殆どなく、現れるにしても殆ど常に「扭曲」され「変形」されたかたちにおいてであることを論じている。
中国古典文学において母を巡る父―息子の葛藤してのエディプス・コンプレックスがよりストレートに描かれているのは『紅楼夢』。『紅楼夢』は「顚覆了中国文学伝統的思惟和写作形式」(p.195)。「小説的一大突破在於作者対於父子之間関係的顚覆性描述」(ibid.)。「這部経典小説描写了父子衝突的主題、為我們研究中国式的”父親情結”提供了一個珍貴的範例」(ibid.)。『紅楼夢』は主人公である宝玉と2人の従姉妹との三角関係を軸に物語が進んでいくが、「小説中描写的児子、父親、母親和祖母之間的三角衝突体現了隠蔵的俄狄浦斯主題」(ibid.)。また、「小説中、父親対宝玉的態度具有有意識的殺嬰欲望的特徴」(p.196)。
また、『紅楼夢』を貫いているのは、


儒教/仏教
父系/母系


という対立であるらしいことにも気づく。
紅楼夢』は親孝行という儒教的な規範を使って儒教道徳或いは家父長制を換骨奪胎してしまったと井波律子先生が書いていたのを読んだのは既に20年以上前か(『酒池肉林』)。

酒池肉林―中国の贅沢三昧 (講談社現代新書)

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