原発論争(メモ)

承前*1

原発を巡る色々について。

原発「作業員の確保」の困難を巡る『東京新聞』の記事;


「日当40万円出すから」 原発作業員 確保に躍起

2011年3月29日 06時58分

 危機的な状況が続く福島第一原発。その復旧作業は放射能、時間との闘いで、作業員の確保が急務となっている。東京電力の要請を受けた協力会社は、各地にいる作業員たちを呼び寄せようと躍起になっている。中には法外な高給を提示された作業員もいる。

 「日当四十万円出すから来ないか」。福島県いわき市からさいたまスーパーアリーナさいたま市中央区)に避難している作業員藤田竜太さん(27)の携帯電話に、旧知の原発のメンテナンス業者から誘いが入った。

 現場は福島第一原発。高給である以上、それだけ高い危険が待ち構えていることはすぐに分かった。電線の敷設作業をしている友人からは「おれ、もう被ばくしているかも」と聞かされた。

 長男はまだ三つと幼く、妻(26)には新しい命が宿った。ためらいなく断った。藤田さんは、「五十代以上の人は高給につられて原発に戻っているらしい。でも、おれはまだ若いし、放射能は怖い。もう原発の仕事はしたくない」と語った。

 一方、協力会社の男性社員(41)は、勤務先から「人が足りないから戻ってくれないか」と第一原発での作業を要請され、四月以降に福島に戻る。

 男性は計測器を使ってそこが作業できる場所かどうかを調べるのが主な仕事。原発の現状からすると、まさにそこが最前線ともいえる。「特別な報酬があるわけではないが、危険な作業が待っているだろう。断ったら、恐らく会社にはいられない」と半ば強制だと受け止めている。

 同県田村市の男性(58)によると、第一原発で働く知人の父に、「五十歳以上の人で原子炉近くに入ってもらえる人を探している。手当は普通より多く払うからお願いできないか」という電話がかかってきたという。

 東京電力は現場の労務環境について、「放射線量が高いので、一人当たりの作業時間に限りがあるため、人員の交代が頻繁に行われている」と説明。また、「協力会社にお願いしながら人員を確保している。作業費は協定に基づいて協力会社に支給しているが、個々の金額についてはコメントできない」としている。 (社会部・堀祐太郎)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011032990065850.html

311を契機とした独逸を中心としたヨーロッパの脱原発化への逆転を巡る山口巌氏*2の一連の記事;


「3.11変わる世界、変わらぬ日本」http://agora-web.jp/archives/1292416.html
原子力発電の終焉」http://news.livedoor.com/article/detail/5420742/
脱原発時代の日本のエネルギー政策」http://agora-web.jp/archives/1289318.html


原淳二郎*3原発なんていらない」http://agora-web.jp/archives/1286945.html


これは元新聞記者の些かセンティメンタルな回想。これに反応したのが、


池田信夫「「豊かな日本」の終わり」http://agora-web.jp/archives/1287220.html


ここでは、歴史的な証言として、最初の、


1980年代には、石油危機のあと「脱・石油」の旗印のもと、原発が推進されました。民放のローカルニュースにはたいてい電力会社がスポンサーになっていたため、反原発の番組はほとんどなく、新聞も同じでした。特に朝日新聞は、科学部の木村繁部長と大熊由紀子記者が激しい原発推進キャンペーンを繰り広げていました。社会部の記者はみんな反対派でしたが。
そんな中でスポンサーのないNHKは、反原発のリーダー的存在で、私も伊方原発訴訟の一審と二審を取材して、国と反対派の討論番組をつくりました。当時は、原発をテレビで取り上げること自体がタブーで、四国電力の社長が記者会見で「NHKの番組は偏向している」と名指しで批判したこともあります。
という部分を引用しておく。たしかにあの頃の朝日の「科学部」は凄かった。

今後の原子力発電について、池田信夫の消極的推進論とそれに対する反論;


池田信夫原発は経済問題である」http://agora-web.jp/archives/1290845.html
岡島純「原発は金銭的にも成り立たない」http://news.livedoor.com/article/detail/5447673/


ところで、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110328/1301334773


Talpidae*4 2011/03/29 14:53  一方で、東電国有化もありうるという声が出てきてますね。なんかちぐはぐな。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110329k0000e010078000c.html
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110328/1301334773#c1301378021
というコメントをいただく。「国有化」問題については、http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20110329/1301410405で確認して、枝野幸男は否定的、玄葉光一郎は肯定的なのかと思ったのだが、既にかなり具体的な案として浮上してきているようだ。『読売』の記事;

東京電力に国有化案、その行方は?


東京電力福島第一原発の1〜4号機の廃炉を決断したが、今後、東電は廃炉にかかる巨額の費用を負担しながら、原発周辺の住民への損害賠償にも対応しなくてはならない。

 賠償額の規模次第では、国有化を視野に入れた再建策を検討せざるを得ないとの見方も浮上している。

 東電の国有化案が出てきた背景には、政府が、経営が厳しくなる東電を支えながら、被害補償も着実に進めるという二つの相反する課題を突きつけられていることがある。

 東電は、電力を安定的に供給し続けなくてはならない義務を負っており、法的整理に踏み切ることは難しい。法的整理をすれば、債権者が同じように扱われるため、損害賠償が十分に行われない可能性もある。さらに、東電が発行している約5兆円(10年12月末)に上る社債の価値も大きく下落しかねず、金融市場が混乱する懸念もある。

 東電の資金繰りは今後、厳しくなることが予想されるため、国の管理下で再生を図るべきだとの議論が出てきた。玄葉国家戦略相も29日、東電国有化について「様々な議論が当然ありうる」と述べている。

 政府内でモデルケースとして想定されているのは、水俣病の原因企業のチッソのように被害補償を行う会社と本業の事業会社に分割する案だ。東電に当てはめれば、減資して国が出資し、会社を、通常の電力事業を行う会社と、福島第一原発の補償業務を含む原発事業を行う会社に分割するイメージになる。将来、国が電力事業会社を再上場させて、株式を売却すれば補償の財源に充てることもできる。
(2011年3月31日09時54分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20110331-OYT1T00237.htm

25日付の小幡績東京電力をどうするか」という記事*5ではまだ「国有化」という言葉は出てきていない。しかし、26日付の池田信夫原発は経済問題である」(上掲)では「損害と補償で数兆円ともいわれるリスクは、私企業では負担できない」、「今後も原発を推進するなら国がやるしかない」と述べられていて、最初読んだとき、〈社会主義者〉に転向? と思ったりもした。その一方で、彼は「政府は東電を救済するな」とも主張している*6。それから、伊東良平「東電は発電と送電を分離せよ」というような主張もあり*7


さて、黒川滋氏*8曰く、


福島県日本共産党が、2007年に福島原発津波被害について予見し批判していることが話題になっていて、紹介した人たち同様、私はこれを高く評価したいと思う。
しかしだからとってこのことを「さすが共産党」「共産党ならでは」などと過大評価する人も多いが、20年前の共産党の主張を検証すれば、そう単純な話ではない。
日本共産党は、21世紀に入ってこそ原発に批判的なスタンスを取っているが、チェルノブイリ原発事故を発端とする1980年代後半の反原発運動に対しては非科学的と批判した。その立場は科学崇拝である。原子力の平和利用を理由に推進派だったことを忘れてはならないと思う。反原発を訴えていた日本社会党と差異化を図り、距離をおいていた。
ではいつ共産党はエネルギー政策を自然エネルギーにシフトして原発に消極的な姿勢を示すようになったのか、
それが疑問だ。
左翼政党は、基本的政策を転換するときには激しい議論が行われ、時として組織内の対立まで起きるような種類のものだが、日本共産党原子力政策についての路線変更が全く不明確であり、痕跡もなくなっている。
共産党だから、社会党だから、なんでも反対、反日勢力みたいな先入観が、今日のこの対応について共産党を過大評価している傾向がみられるのは、反原発運動を共産党にくさされた立場からすると、いささかおもしろくない。
http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2011/03/post-b53e.html
1980年代後半といえば、共産党村上春樹をさかんにdisっていた頃*9。その頃の共産党が非「反原発」であり、また素朴な〈科学主義〉だった(今も?)というのはたしかだが、だからといって「推進派」だったと言い切っていいのかはわからない。因みに、その頃の共産党は「反原発」に限らず殆どの市民運動や大衆運動について、自らの傘下の団体がやっている場合を除けば、よくて無視、基本的には敵対という立場だったわけだが。他方、社会党について言えば、たしかに党全体の一般的なスタンスは「反原発」だったが、中には露骨な「推進派」もいたわけだし、また社会主義協会*10は資本主義の原発はNGだが社会主義原発はOKだとか主張していたわけだ。また、一般の「反原発運動」にしても、その大衆化に貢献したのがあの広瀬隆だったり、またかなり〈母性主義〉的な潮流もあったりして*11、20年以上経った地平から振り返れば手放しで肯定することは難しい。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110313/1299983682 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110326/1301074426

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110103/1294080150

*3:http://jun.typepad.jp/junhara/

*4:http://d.hatena.ne.jp/Talpidae/

*5:http://agora-web.jp/archives/1289726.html

*6:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51691012.html

*7:http://agora-web.jp/archives/1290994.html

*8:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060726/1153936139 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060727/1153966399 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061114/1163522533 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061228/1167319165 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070101/1167668245 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070112/1168605677 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070213/1171336683 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070220/1171996052 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070612/1181612322 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081025/1224880676 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081030/1225345006 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081119/1227113166 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090718/1247885670 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090722/1248287685 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090819/1250656927 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091106/1257474523 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091211/1260458631 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100110/1263129732 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100705/1278342073 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100906/1283790345 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110112/1294801056 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110308/1299514076

*9:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060313/1142223339

*10:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060927/1159324955 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080812/1218480360 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090306/1236305383 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091106/1257474523

*11:これは青木やよひと上野千鶴子の間の〈エコフェミ論争〉にも関係している。青木やよひについてはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091127/1259334346