朱蒙から檀君/箕子へ(メモ)

王明珂『英雄祖先與弟兄民族 根基歴史的文本與情境』(中華書局、2009)*1から少しメモ。
第六章「反思英雄徒辺記:朝鮮與東呉」。
後漢書』(「東夷列伝」)では朝鮮半島の「夫餘」の祖を「東明」としている(pp.99-100)。『魏書』では「高句麗」の祖を「朱蒙」としている(pp.100-101)。「中、韓歴史学者一般認為”朱蒙”與”東明”是同一人名的不同音訳」(p.101)。また、王氏は卵から生まれた 朱蒙(東明)の説話のプロットが『詩経』や『史記』に見える周の始祖説話に類似していることに注目している(ibid.)。高句麗または高麗の祖が 朱蒙であるという認識は、その後の中国の史書、『周書』、『北史』、『隋書』でも引き継がれる(p.102)。
朝鮮半島(高麗)現地における歴史の構築。12世紀高麗の金富軾『三国史記』――「”朝鮮民族”形成過程中一重要里程碑」(p.103)曰く、


三国史記》以漢文書写、且以中国”正史”文類為書写架構。這顕示、在当時中国強勢的文字記憶及各種文類概念下、這位高麗作者幾乎毫無選択地假借、依附這些記録與伝逓社会記憶的媒介。然而在另一方面、作者選択”正史”文類、並綜合両部中国正史《史記》與《三国志》為之命名、説明作者将本地”三国”比擬於中中国漢魏間的”三国”、将高句麗百済新羅三国之歴史比擬為中国正史。這也便是将当時継承”三国”之高麗王朝、視為可與中国相比擬的政治與民族実体。由於当時的高麗直接承継”高句麗”、因此本書対”高句麗”之祖先起源叙述特別値得注意。(ibid)

這様的文本、我們可称之為”辺縁文本”、它們産生於各種認同與記憶混雑的辺縁地帯、産生於糅合各種記憶與認同以産生新記憶、新認同的辺縁時間。《三国史記》作者金富軾透過此文本、一方面表現其対中国文献記憶的依頼、另一方面又在編織、整合本地社会記憶中、表現其結合本地各祖源之群体以転成高句麗或高麗族群認同之意図。這様的意図、明顕地表現在他将可能為東夫餘始祖伝説的”金蛙”、北夫餘始祖伝説的”天帝解慕漱”、皆勉強納入高句麗英雄祖先”朱蒙”故事之中。因此《三国史記》在此時出現的意義是:経過三国時期各方国之往来互動、終於有高麗王朝之統一、而這個政治上的統一與高麗整体民族意識之凝聚相生相成。金富軾著《三国史記》、将各種起源神話或本土”歴史”聚為一祖源叙事(文本)、可説是為此民族與国家(情境)建立一共同起源記憶。此亦為”情境”與”文本”之互映。(pp.104-105)
三国史記』では「箕子」の記述は少ない(ibid.)。
三国史記』の少し後の『三国遺事』――「収録民間流伝之”古記”資料更豊富、且斧鑿較少」(p.106)。ここでは「檀君」が前面に押し出され(ibid.)、朝鮮人の始祖の座を 朱蒙から奪ってしまうことになる(p.107)。

(前略)作者自”古記”中採取一早於”箕子”的神性祖先”檀君”、作為”朝鮮”血縁、空間與政権之起始。”檀君……都平壌城、始称朝鮮”、顕示作者将朝鮮人認同的三個重要符記――代表共同血縁的”檀君”、代表整体空間的”朝鮮”、與代表政治一体性的”平壌城”――都帰結於有関檀君的叙事中。在叙事之末、作者将”箕子”描述為一位遠晩於檀君的外来者。檀君避之而隠於山上成神、如此、作者将檀君置於一”神性”祖先位置。(後略)(ibid.)

12―14世紀、是朝鮮半島歴史上一個関鍵変化時期。一方面、統一的政治局面逐漸促進一体的族群認同;另一方面、高麗知識精英又傾向於以儒学儒教来強調自身在文化上的優越性――至少部分原因為、以此別於那些以武力脅威朝鮮的遼、金、元等東北亜游牧王朝。在此以及其他因素下、”檀君”被尊奉為始祖、”箕子”則被尊為帯来文明教化的朝鮮後代始祖――前者隠喩着政権、血縁與疆域之源頭、後者隠喩文明礼教之開創。(pp.107-108)
箕子の重要性がさらに高まるのは李氏朝鮮になってから。『朝鮮史略』、徐居正『東国通鑑』(p.108)。安鼎湖『東史綱目』(p.110)。しかし、19世紀後半の世界的なナショナリズムの波の中で、箕子の重要性は霞み、檀君が「大韓民族根基歴史中的始祖」となる(ibid.)。
箕子信仰の興隆について、王氏は


Han Yong-woo “Kijia Worship in the Koryo and Early Yi Dynasties: A Cultural Symbol in the Realationship between Korea and China”in W. Theodore de Bary and Jahyun Kim Hasboush (eds.) The Rise of Neo-Confucianism in Korea, Columbia University Press, 1985, pp.349-374


を参照している。また、参照されている朝鮮の史書は、


金富軾『三国史記』景仁文化社(京城)、1941
釈一然『三国遺事』東方文化書局(台北)、1971
徐居正『東国通鑑』朝鮮古書刊行会(京城)、1912
安鼎湖『東史綱目』朝鮮古書刊行会(京城)、1915


徐洪興、小島毅、陶徳民、呉震(主編)『東亜的王権與政治思想――儒学文化研究的回顧與展望』(復旦大学出版社、2009)*2に所収の山内弘一「19世紀前半期朝鮮王朝的小中華意識及王権論――以洪直弼為例」で、朝鮮における箕子の重要性が論じられている。