NYT on Supernatural Thailand


THOMAS FULLER “Thais Look to the Supernatural” http://www.nytimes.com/2010/12/29/world/asia/29iht-ghost29.html


タイにおける民間信仰を巡って。冒頭に曰く、


Don’t be fooled by the skyscrapers, the roads clogged with the latest luxury cars or the high-tech gadgetry in pockets and purses. This country of 65 million people has embraced modernity, yes, but many Thais will tell you that ghosts and spirits still wander the streets and inhabit buildings. Important business decisions often require consultations with a fortune teller. Cabinet ministers and military officers are sometimes so concerned with numerology and advice from their shamans that politics in Thailand could be called the black art of the possible.
また、”Far from abandoning traditional beliefs in the paranormal, Thailand is harnessing the forces of technology and modernity to reinforce them.”
ここで語られているのは、“spirit houses”(”the ubiquitous miniature structures that resemble dollhouses and serve as dwellings for protective ghosts”を造る会社Holy Plusの創業者Todsaporn Jamsuwan氏。ここで英語で“spirit houses”といわれているのは要するにホコラで、上海でもタイ資本のビルやレストランには必ずあるのだが、タイ語では何というのか。記事によれば、近代的なセラミックスや花崗岩を使ったホコラでは霊が休息できないので、やはりホコラは伝統的な木製に限るといった論争があるという。また、7-11で売られる護符。コール・センターを設け電話による占いのサーヴィスを始めた占い師のLuck Rakanithes氏。

Each year, Thais collectively spend about 1.9 billion baht, or about $63 million, on visits to traditional fortune tellers, according to the Kasikorn Research Center in Bangkok. On average, they consulted fortune tellers three times in 2008, the latest year for which data were available, according to Kasikorn. That is an increase from twice a year earlier in the decade.

“People still queue up for famous fortune tellers. They trust that it will be more human,” said Pichit Virankabutra, the curator of an exhibition on ghosts that since August has attracted 120,000 visitors at the Thailand Creative and Design Center in Bangkok.

Online fortune telling is cheap and easy, Mr. Pichit said, but “if you can connect with someone in person, it’s better than a cold computer keyboard.”

最後はSonthi Boonyaratglin将軍*1によるクーデタを予言した占い師Warin Buawiratlert。
今手許にある本だと、田辺繁治『生き方の人類学』第3章「実践コミュニティ」、第4章「儀礼における実践」で、北部タイのチェンマイ周辺の「霊媒カルト」が論じられている。田辺先生によると、「霊媒」の数が急増したのは「一九八〇年代の高度経済成長の初期」である。また、伝統的には「女性」は殆ど女性であったが、1980年代以降「男性の異性装者」が増加し、1990年代以降は「マスキュリティ(男らしさ)を強調する男性の霊媒」が増加しているという(p.146)。少し抜書きしてみる。「霊媒」が提示する〈超自然的〉な物語は一方的に押し付けられるのではなく、「霊媒」とクライアントとの「対話」を通じて構成されていく;

おそらく、もっとも不人気な霊媒とは、占いの図式をあまりにも機械的に適用して問題の解決をはかろうとする者だろう。霊媒カルトは霊媒とクライアントとの対話による物語の作り方において特色があり、それがレパートリーというそれぞれのカルト独自の資源となっている。霊媒カルトのレパートリーとは、病や悩みを解決し、幸運を導きだす物語の作り方、すなわちそれぞれの霊媒カルト独自の〈モードゥス・オペランディ〉である。(p.174)
また、「霊媒」に憑依する霊の「グローバル化」;

最近新たに誕生した霊媒たちのカルトは、先生である霊媒とはちがった斬新なキャラクターの守護霊を生みだすことによって若い世代のクライアントにアピールする。日本から輸入されたアニメ映画、中国のカンフー映画、歴史上の王たち、高名な仏教僧、北タイに住む山地居住民の霊など、霊媒カルトが生みだす新たな表象は限りない。霊媒カルトはグローバル化した表象の世界を自由にかけめぐっているのである。(p.153)
生き方の人類学―実践とは何か (講談社現代新書)

生き方の人類学―実践とは何か (講談社現代新書)

上のNYTの記事ではタイといえば誰もが結びつける仏教が言及されていない。タイにおける仏教と農民の「祖霊」信仰についてのチャティプ・ナートスパー氏の叙述をメモしておく;

支配者たちが彼らの現世と前世で多大の功徳を積んだという理由で、仏教は農民たちに支配者を承認させる。しかし農民たちが日常生活で何を信じようと、また飢饉や病気の時に彼らが祖霊に祈ろうが、仏教寺院にとってはどうでもよかった。なぜなら、仏教は国家によってタイ社会の中に移植されたものであったからだ。仏教は七百年前にはじめて農村に導入されたが、それは政治的目的からであって、宗教的目的からではない。村落共同体に対する国家の支配要求を正当化することがその目的であった。事実、宗教を管理し支えたものは国家であって、僧侶ではなかった。古くからの祖先崇拝体系が農民信仰の内的核心として保存されえた理由もこれによって説明される。よく見かけることだが、タイの家庭では人びとは彼らの祖先の骨と灰を寝室に保存するが、仏陀像は居間や他の部屋に置いている。タイ人の信仰は農民の心の中では祖先崇拝と仏教との二重サブシステムのアマルガムである。言いかえれば、農民階級の間の横の関係への共同体的信仰と、農民階級と貴族階級との上下関係への信仰との二重のサブシステムがある。(「タイ」in 今村仁司編『現代思想を読む事典』、pp.404-405)
現代思想を読む事典 (講談社現代新書)

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