『銭梅渓手稿』

許獲曄「《 銭梅渓手稿 》以1325万元成交」『東方早報』2010年12月22日


12月20日、北京の某オークションにて『銭梅渓手稿』5冊が1325万元で落札された。記事は落札者については語っていない。この5冊の中には、尖閣諸島(釣魚島)が中国領である証拠として中華圏で屡々言及される伝沈復『浮生六記』巻五「冊封琉球国記略」(通称「海国記」)の写本が含まれている。
山西人の古籍商、彭令は2005年に、南京の「朝天宮古玩市場」で、表紙に『記事珠』と題され、「楳渓居士銭泳」という落款がある約80頁の手書きの冊子を入手した。「銭泳」は清代の書家。彭令が北京大学歴史系の辛徳勇教授に確認したところ、この冊子は銭泳の真筆であるとされた。彭令は『記事珠』をばらして、『銭梅渓手稿』として全4冊に製本し直し、さらに2008年夏に「冊封琉球国記略」を独立した1冊とし、『銭梅渓手稿』は全5冊となった。2009年10月に、彭令は台湾の「保釣人士」の勧めで、「冊封琉球国記略」を発見したこと、その中の「嘉慶十三年」(1808年)付けの「釣魚台」の記述は日本側の主張する古賀辰四郎による尖閣列島発見(1884年)よりも76年早いことを発表した。
さて、「冊封琉球国記略」と沈復『浮生六記』との関係であるが、専門家は「冊封琉球国記略」が沈復によって書かれたものであるかどうかについては懐疑的である。明清文学研究者で中国社会科学院学位委員会委員だった陳毓羆(2010年9月没)はその「〈琉球国記略〉非沈復之作考辨」という論文で、沈復ではなく、琉球へ派遣された同じ冊封使節団の誰かの筆によるものではないかと論じている。その一方で、人民文学出版社は2010年5月に沈復『浮生六記』の増補版を刊行したが、「冊封琉球国記略」を「第五記」として収録している。沈復*1の『浮生六記』は清代江南の士大夫の日常生活を記録した随筆として知られており、岩波文庫からも出ている。

浮生六記―浮生夢のごとし (岩波文庫 赤)

浮生六記―浮生夢のごとし (岩波文庫 赤)