承前*1
辻広雅文「民主党は何のために消費税を10%に引き上げるのか 〜菅首相ブレーンの小野善康・大阪大学教授に聞く」http://diamond.jp/articles/-/8668
特に、「第三の道」について語っている最後の部分をメモしておく*2。
今、不況で失業者が増加している。彼らを放置できず、失業手当・給付金を支払わなければならない。増税してまで失業手当を支払うということは、先ほどの例えで言えば、いわば「家で寝ていてもいい」という公共事業を行うことだろう。そうであるならば、何か政府事業を行って、給与で支払った方がいい。そうすれば、雇用と同時に設備・サービスの便益が生まれる。増税分はすべて、失業者の雇用対策に充てればいい。
―増税分は財政赤字の削減に充てるのが、財政健全化の標準的な考え方ではないか。
それでは、不況対策にはならない。政府は、自分の懐に入れない、全額雇用対策に回す、と宣言すべきだ。人は必ず雇用されるとわかっていて、なおかつ実際に雇用されれば、消費は増える。また、失業率が低下すれば、賃金の下落傾向に歯止めがかかり、デフレが緩和される。この点からも当然、消費が増える。政府事業によって設備・サービスの便益が生まれ、同時にデフレ緩和、雇用不安緩和によって消費が増える。その際の所得と消費の拡大によって税収も拡大し、財政も好転し始める。
さて、この説明に小野氏への批判者*3は納得するかどうか。
―視点を変えれば、日本経済の低迷は潜在成長率の低下にある。潜在成長率の向上には、構造改革による産業界の生産性向上が必要だ。サプライサイド(供給)強化の一環として企業の再編、淘汰が進めば、どうしても一時的に失業者は増える。私は構造改革路線を「第二の道」と批判したが、産業界の競争促進、再編・淘汰を否定しているわけではない。日本経済にとって必要なことだと賛同する。だが、そこで発生する失業者をそのままにしてはいけない。働かせなければならない。民間企業で働く場がないのだから、国がその場を用意すればいいのだ。
―政府事業を行うのは、「第一の道」も同じだ。「第三の道」の違いは、道路建設などの公共事業ではなく、介護・医療・環境などの成長分野で政府事業を行うことか。
重要なのは、誰にも成長分野など分からない、ということだ。私にも、分からない。政府にも分からない。だから、どんな分野におカネを使ってほしいのか、政治家は国民に聞くことこそが大事だ。その多数決で判断すればいい。道路が必要だという人が多ければ、道路を作ればいい。それが、民主主義というものだ。菅首相は、それは介護分野だと判断したのだろう。もうひとつ重要なことは、“生活必需品を提供する産業分野”に政府がおカネを投じ、雇用の場を作ってはならないということだ。“生活必需品を提供する産業分野”というのは、民間産業として採算が取れ、すでに成立している分野だ。たとえば、政府はパン屋を経営してはならない。それは、パン屋の仕事の横取りであり、パン屋の公営化であり、クラウディングアウトが起こる。
政府がおカネを投じるべきは、必需品ではないけれどみんなが欲しがっている分野だ。それでいて、民間企業にとって採算が取れにくく、参入を逡巡している分野だ。そうした視点からは、介護・医療・環境は対象分野となりえるだろう。