フランコとユダヤ人

Giles Tremlett “General Franco gave list of Spanish Jews to Nazis” http://www.guardian.co.uk/world/2010/jun/20/franco-gave-list-spanish-jews-nazis


西班牙の独裁者だったフランシスコ・フランコ将軍はファシストであったのに、第二次世界大戦では枢軸国に参加せず、中立を保った*1。まるで、「たちあがれ日本」に参加しない城内実*2みたいだ。また、西班牙は親独政権が支配する仏蘭西からユダヤ人が米国へ亡命するための中継点として機能した。そうしたことから、フランコの擁護者たちは、ヒトラーの独逸と違ってフランコの西班牙はユダヤ人を迫害しなかったと主張してきた。さらに、イスラエルの総理だったゴルダ・メイアも戦争中の西班牙のユダヤ人に対する扱いに謝意を表している。
しかし、最近西班牙の公文書館で発見された文書はこのような〈神話〉を根柢から相対化するものである。それは当時の西班牙政府が作成した西班牙在住のユダヤ人リスト(但し、ヴィシー政権仏蘭西から逃げてきたユダヤ人は含まれていないという)。さらにこのリストはSS長官だったハインリッヒ・ヒムラーにも手渡されていた。また、近代的なレイシズムに沿って、「ユダヤ教」ここでは「宗教」ではなく「人種的アイデンティティ」として定義されている。


Provincial governors were ordered to look out especially for Sephardic Jews, descendants of those expelled from Spain in 1492, because their Ladino language and Hispanic background helped them fit into Spanish society.

"Their adaptation to our environment and their similar temperament allow them to hide their origins more easily," said the order, sent out in May 1941.

その調査の徹底ぶりは、レコンキスタ後の異端審問以来とも言われる。また、SSは西班牙にもスタッフを駐在させており*3ユダヤ系の人間を監視していた。但し、フランコ政権の有力者の中にもユダヤ人の子孫はいたのだが。
戦後西班牙は西側陣営の中で生き残るために対独協力の歴史を徹底的に隠蔽し、ユダヤ人リストもその殆どが廃棄された。
なお、西班牙における「異端審問(Inquisition)」については、取り敢えずKaren Armstrong The Battle for God*4、pp.6-7を参照のこと。
The Battle for God: A History of Fundamentalism (Ballantine Reader's Circle)

The Battle for God: A History of Fundamentalism (Ballantine Reader's Circle)