「質素倹約」と対立するのは「金儲け」というより「贅沢」だろう。金を儲けていても「質素」な生活を守っている人はいる。例えば、麻薬密売人。
よく考えると、学校の日本史の授業では、徳川吉宗や松平定信のように倹約に努め贅沢を戒め財政を立て直した為政者を評価し、徳川宗春や田沼意次のように遊興や贅沢を奨励して商業を発展為政者を悪く評価する教育が為されてきた。バカブロガーのように日本の教育の悪い部分をすべて日教組のせいにするようなことは書きたくないのだが、日本の伝統的価値観が重視した戦前の教育と、反資本主義的な日教組の影響が強かった戦後教育は実は地続きで、「金儲け=悪」「質素倹約=美徳」という価値観は、日本の伝統的保守もサヨクで共有されるのだ。
http://d.hatena.ne.jp/kechack/20100210/p1
それはともかくとして、社会思想史というか社会科学史の文脈で言えば、ゾンバルト/ウェーバー問題ということになるだろう*1。これはヨーロッパにおいては、カトリックvs. プロテスタント、ルネサンスvs. 宗教改革、貴族vs. ブルジョワジー、羅典vs. ゲルマンといった対立が絡んでいるので、何も日本に特有のことではないとは思う*2。戦後の日本におけるこのような「価値観」の定着については、大塚久雄のウェーバー解釈(例えば『社会科学の方法』、『社会科学における人間』)の影響が強かったとは言えるだろう。大塚久雄の本というのは、俺の世代では、文系の大学1年生の必読書ではあった。
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彼らの世界は、高級官僚たる上級士族とはもちろん、祭礼的な共同体の中でおおらかな交遊文化を持ち得た農民とも、また洗練された消費文化を享受しえた町民とも異なっていた。消費の楽しみや官能的経験から切り離された質素な生活、抽象的で過剰な言葉が溢れる高度に倫理化された世界――それが、彼らの適応すべき環境だった。質実剛健な倫理的紐帯の命じるところは忠誠であり、滅私奉公であり、天下国家についての談論であり、言行一致の行動主義であったが、けっして自然の観察でもなければ、市場の動向についての予見でもなかった。下級士族の社会化過程の中では、現実を構成する下部構造の多様性や複雑性に関する知識や感覚は育ちにくい。
新東京の山の手に居を構えた新政府の官僚などは、江戸下町の庶民の世界から見れば、しょせんは無教養で野暮な田舎侍にすぎない。(後略)(pp.117-118)
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*1:これについては、例えば奥井智之『近代的世界の誕生』などを参照のこと。
*2:これについては、唐突かもしれないが、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091118/1258547733 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080126/1201368535 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080814/1218689113をマークしておく。
*3:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070314/1173870036