「論文盗用」、「使い回し」

『朝日』の記事;


国立研究所長が論文盗用、使い回しも 社会福祉の権威

2010年1月7日3時3分


厚生労働省の審議会の要職を歴任した国立社会保障・人口問題研究所の京極高宣所長(67)=社会福祉学=が2003年に出版した著作集の論文で、他人の論文を大幅に引き写した部分があることが、朝日新聞の調べでわかった。もとの論文を書いた国会図書館元調査員は「私が書いたものと同じ内容。出典の明示がなく引用されており、盗用だと思う」と指摘している。

 さらに、京極氏がこの論文を、国の補助金などが支給された研究事業の報告書に使い回していたことも判明。いずれも研究倫理に反する行為とされる。京極氏は介護保険制度や障害者自立支援法の立案を手がけ、社会福祉の権威と評価されている。

 京極氏の著作集は全10巻。問題となったのは、03年3月出版の第6巻に収録された「海外の社会福祉」と題した論文だ。京極氏が1986〜87年、社会福祉・医療事業団(当時)の広報誌で、欧米5カ国と日本との社会福祉の比較をテーマに連載した内容をまとめたものだった。

 この論文で、フランスの社会福祉政策について論じた「第3節」のうち約7割が、国会図書館の調査員(当時)が86年に書いた論文「フランスにおける社会福祉の法制と行政組織」からほぼ引き写されていた。筆者の調査員の論文が出典であることが明示されていない。

 京極氏の説明によると、論文を連載していた当時、京極氏は、旧厚生省社会局の専門官。連載を執筆する際、国が補助した研究事業の報告書の一部だった調査員の論文を引用したという。また、他の4カ国分の論文も報告書の内容を参考にしたとしている。

 さらに、その後、京極氏は87年と92年の計2回にわたり、別の社会福祉関連の研究事業に参加。その際、フランスの社会福祉について、連載とほぼ同じ内容の論文を使い回し、報告書として提出していたことも明らかになった。
http://www.asahi.com/national/update/0107/TKY201001060438.html

87年の研究事業は福祉関係の財団法人からの助成金対象で、92年の事業は旧厚生省から補助金を受けていた。厚労省によると、一般的に過去の論文を研究報告書に使い回すのは不正研究にあたりうるとしている。

 京極氏の著作集の第6巻では、86年の広報誌連載分と、92年の報告書分が両方とも収録されていた。2本の論文は一部手直しがあるものの内容がほぼ同じのため、最近になって専門家の間で疑問の声が上がっていた。

 京極氏は、著作集での問題は認めつつ、86年の連載時の引用などは、旧厚生省職員だったため、「提出された報告書は国の共有財産。当時は役所が自由に使えたので問題ない」と主張。だが、厚労省によると、通常、報告書の著作権は研究者側にあり国の担当者に権利はないとしている。

 著作集の発行元の中央法規出版は「著作集収録にあたり、もとの版元には必要な手続きを取った。筆者が書いたものをそのまま載せており、それ以上わからない」と話している。

 京極氏は、東大大学院を修了後、旧厚生省専門官、日本社会事業大学長などを経て、05年に同研究所長に就任。内閣府の中央障害者施策推進協議会長も務めた。(西川圭介、香川直樹)
http://www.asahi.com/national/update/0107/TKY201001060438_01.html

たしかに、「社会福祉学」の権威ではある。京極氏の関わった本は俺も何冊かは持っている筈。
今回のような全国ニュースとして取り上げられる騒動にはならなかったが(というよりも一般メディアは気づかなかったようだが)、「社会福祉学」の先生による(単行本レヴェルでの)「盗用」事件というのは何件か小耳に挟んではいる*1。多分、「社会福祉学」の学としての存立を考え直すべきなのかも知れない。私の感覚だと、「社会福祉学」というのは社会学に寄生しているものの、学としての理論的基盤に対して無反省であるため、どうしても行政絡みの実務的知識(或いはインサイダー情報)を持った人間が学界的に権威を持ってしまう。

*1:但し、研究書とかではなく、社会福祉士介護福祉士の国家試験参考書の類。