フォイエルバッハの2つの原理(メモ)

承前*1

共同存在の現象学 (岩波文庫)

共同存在の現象学 (岩波文庫)

将来の哲学の根本命題―他二篇 (岩波文庫 青 633-3)

将来の哲学の根本命題―他二篇 (岩波文庫 青 633-3)

カール・レーヴィット『共同存在の現象学』I「フォイエルバッハの将来の哲学の根本問題」b「フォイエルバッハ哲学のふたつの原理」。少し抜き書き;


「哲学」という語がフォイエルバッハにあって意味するものは(略)人間学の立場に立つ哲学である。人間学的に、あるいは人間的に哲学するとは、フォイエルバッハにとってつぎのことを意味する。すなわち、(1)*2抽象的な思考をはじめて確証する感性を顧慮することであり、(2)みずからの思考をはじめて確証する共に在る人間を顧慮することである。このふたつを顧慮することで、頽落してひとりよがりなものになりがちな哲学的思考のふくむ真理が「客観的」なものとなることが保証される。思想の内的な真理は外的にのみあかされる。自足的な思索者とその思考がじぶん自身すすんで、みずからの−外部に−踏みだしてゆくことによってあかされるのである。したがってフォイエルバッハによれば、思考する人間が実存的になるのは、外に出ているものとなることによってであり、これは文字どおりに理解されるべきである。つまり、対象的にじぶんの外部にあるもの、外的世界や共同世界の「もとに在ること」によってなのだ。外的世界や共同世界から、人間は、自身なにものであり、なにをおこない、なにを被るのかが開示される。(p.38)
熊野純彦氏の訳註;

「みずからの−外部に−踏みだしてゆく」はAus-sich-Herraustreten, 「実存的」はexistenziell, 「外に出ているものとなる」はExistent-werdenの、それぞれ訳。「実存的existent」は、文字どおりには、あるいはハイデガーふうにいえば、「外に−出ているex-istent」こと、つまりなにかの「もとに在ることSein bei …」という意味。(p.408)

実存的な外在化からみちびかれるふたつの原理は、フォイエルバッハにあってはかくして、「感覚主義」(思考が「感覚に対して明白であること」)と「他者中心主義」(思索家が〈きみ〉に関係づけられていること)であるが、両原理は方法論的に理解されるべきである。外在化の原理のうちで統一されるこの二重のテーゼによってフォイエルバッハは、ドイツ観念論がその最後の形態(ヘーゲル)において崩壊したのちに、きわめて多様な標題のもとで積極的に革新がすすめられた哲学的問題設定を、時代に先駆けて定式化したのであった。《私》の哲学である「精神」の哲学が、精神的な〈私〉から出発するのを伝統としていたのに対して、自然のうちに根づいた「精神」と《私》への問い、「感性的に与えられた〈きみ〉」(フォイエルバッハ)への問いが展開されたのである。こうした問いが、感性的−人倫的な生の関係である人間的生をめぐる、事実的な問題設定を支配している。(p.39)
「他者中心主義」の原語はAltruismus。Egoismus(自己中心主義)と対立する(訳註、pp.408-409)。通常は(ジコチューに対立した)利他主義と訳される語。ところで、英語や仏蘭西語では、道徳的なegoism/egoism=selfishnessと哲学方法論的なegotism/egotisme(自我論)が区別されるけれど、独逸語においてどうなっているのかは知らず*3
また、上の引用した部分の直後に「小説」という言葉が言及されている。

みずからのふたつの原理を批判的に解明する作業へとフォイエルバッハが到達したのは、観念論的な哲学、とりわけヘーゲルのそれとの対決によってである。フォイエルバッハによれば、観念論的な哲学の根本的な欠陥は以下の点にある。すなわちその哲学は主観性と客観性の問いを、(1) *4純粋に理論的な立場からのみ設定する。「だが世界は根源的には〔中略〕存在し所有しようとする意欲にとっての〔客体〕であり」、そのことを基底としてはじめて思索の対象となるのである。さらには、(2)観念論的な哲学は、もっとも本質的な客体である他の人間たちを見すごしている(略)。その哲学は伝統的に〈私〉から出発する。ここにはふたつの、とはいえ意味のうえからは同一の動機を有する捨象があること、これを示すことが、かくしてフォイエルバッハにとって重要となる。第一に、思考する〈私〉の感性を見のがすことである(略)。この感性によってのみ人間の思考は有意味なものとなる。第二は〈きみ〉の看過であって、〈きみ〉にもとづいて私は、はじめて現実的な《私》となるのである。(pp.40-41)
フォイエルバッハの「感性主義」を巡っては、マルクスの『経哲草稿』もマークしておくべきか。
経済学・哲学草稿 (岩波文庫 白 124-2)

経済学・哲学草稿 (岩波文庫 白 124-2)

p.41からp.48の前半までは、「ふたつの原理」を巡るフォイエルバッハからの引用集。ここでは、フォイエルバッハ異性愛中心主義(pp.44-45)に注意を喚起しておく。
(続く)

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091116/1258370011 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091118/1258573653

*2:原文では丸囲み数字。

*3:仏蘭西語のegoisme/egotismeについては、中川久定『自伝の文学』を取り敢えずマークしておく。

*4:原文では丸囲み数字。