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浅田彰と柄谷行人による久野収へのインタヴュー「京都学派と三〇年代の思想」(『批評空間』II-4、pp.6-33、1995)を久しぶりに読んでみて*1、少しメモ。
久野収曰く、
「京大事件」とは、京都大学法学部教授、滝川幸辰が法学部教授会の同意なしに、文部省(正式には天皇が招集した「文官任免委員会」)によって強制罷免させられた事件。京都大学法学部の教員は抗議のための総辞職を敢行し、京都大学の学生も教員の復職を求めて闘争に立ち上がった。その時の文部大臣は現首相の鳩山由紀夫の祖父である鳩山一郎。鳩山一郎が滝川幸辰を罷免したのは右翼の圧力に屈してのこと。勿論、祖父の罪を孫が世襲しなければいけない謂われはないのだが、教訓とはすべきであろう。
ぼくの大学に入った年は、昭和六(一九三一)年、満州事変が起こった年です。そして、ぼくの大学三年の年一月に、凶暴なヒトラーがドイツの政権を獲得し、五月に日本のリベラルの政治的敗北だった京大事件が起こった。ぼくの思想的生活は、ヒトラーの政権獲得と京大事件によって決定されたわけです。(p.6)
久野収によると、鳩山一郎にしっぺ返しを食らわせたのが中井正一。
滝川幸辰は何故右翼を怒らせ、罷免されなければならなかったのか。一つは治安維持法の解釈。司法当局は治安維持法に関して、同じ罪でも転向を表明した者に対してはあからさまに減刑を行い、転向を拒む者に対しては重刑を与えていた。これを近代的な罪刑法定主義に反すると批判したこと。もう一つは姦通罪を巡って。姦通罪にはジェンダー的なダブル・スタンダードがあった。女性の場合は「姦通」がばれたら即刻起訴されたが、男性が罪に問われるのは相手の夫が告訴した場合に限られていた。滝川は「男女同じ扱いにするのが良い」と主張した。「公開講演で、両方をともに罰するか、そうでなかったら、両方とも相手に告訴されなければお構いなしにすべきだと言って、姦通の奨励になると、右翼や貴族院で激しく糾弾された」(pp.7-8)。
浅田 中井正一なんかは、大学を超えて、もっと広い情報のネットワークを考えていたんでしょうね。
久野 それはよく討論しました。京大闘争でも彼は、国内と各国大学之大学院学生に呼びかけ状を送り、連絡ネットワークを企てました。その結果、文部省の鳩山文相の兇行は国際的に知れわたっていて、知らぬは文部省と鳩山文相だけのありさまになり、戦後鳩山のパージ解除がおくれたのは、占領軍の文化関係者が彼が京大事件の文部大臣だったことを知っていたからだ、という噂が流れたくらいです。(p.25)
これは、現在でも右翼やウヨが性教育とか夫婦別姓といった〈下半身ネタ〉から攻める傾向があるのを考えれば、興味深い。
黒澤明の初期作品『わが青春に悔なし』は「京大事件」をモティーフにしたもの。
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