Poe’s Hair

承前*1

『朝日』の記事;


幽霊も?「推理小説の父」の遺髪、慶大に

2009年9月21日



 推理小説の父エドガー・アラン・ポーの遺髪が19日、東京・三田の慶応大に寄贈された。24日から26日まで同大図書館で展示される。

 今年は生誕200年で、日本ポー学会の記念大会のため来日した米ブラウン大のセントアーマンド名誉教授が、研究書などとともに寄贈した。

 髪は婚約者の女性詩人と生前に交換したものの一部。保管した部屋でポーの幽霊の“目撃談”も。「取り戻しに来たのか」と同名誉教授。ポーに心酔した江戸川乱歩が遺髪を見たら、怪しく魅力的な物語にしそうだ。
http://book.asahi.com/news/TKY200909190219.html

その「遺髪」はロケットに肖像とともに収められているもの。また、ポーの婚約者の名はSarah Royster*2
ところで、気になるのは、男女間で髪を交換するということが19世紀の米国東海岸社会でどのような意味を持っていたのかということである。言うまでもなく、髪というのは人格の容器としての身体の一部として換喩的な意味を有するといえよう。また、エドマンド・リーチやメアリー・ダグラス*3を踏まえた本田和子先生は「速やかに成長・繁茂する特異性は、意志や理性と無縁の原初の生命力を表象し、それゆえに「非秩序」を象徴する」(『少女浮遊』、p.70*4)といい、さらに

髪は、肉体の他の部分にもまして速やかに成長・増殖し、可視の形で代謝をくり返して、容易に外部の「もの」となる。すなわち、神経や内臓とは異なり、肉体の表層を覆って内と外の境界に位置しつつ、しばしば脱毛という形で身体から離れ、外在する異物と化して旧所有者にすらその外部性を際立たせる。成長の速やかさと所有者の意志を超えた増殖力のゆえに極めて生命的でもある毛髪は、その境界性のゆえに神秘さと不気味さでしるしづけられ、特別な意味を付与される。魔力や呪力など、しばしば超越的なものと結び付けられ、多くのタブーと関連させられるのもこの所以であろう。(pp.68-69)
とも述べる。髪は人格を換喩的に指示すると同時に、その当の人格を意志・統制を超えて自己主張してしまう。19世紀の米国人にとっては如何に?
少女浮遊

少女浮遊