http://d.hatena.ne.jp/snakefinger/20090530/p1
とても勉強になる。ふむふむと頷いてしまうところも多いし。アニメ『けいおん!』については視ていないので、当然ながらわからないけど。
『スウィングガールズ』について;
なるほどね。「社会的な達成度」というのがあまりわからないのだが、『スウィングガールズ』にしても、その次に言及される『リンダリンダリンダ』にしても、〈社会における音楽〉ではなく〈音楽における社会〉或いは〈音楽という社会〉を描こうとしていたことが重要なのではないかと思う。その意味では、〈音楽における社会〉を構築できない、或いはそもそも音楽において社会が構築されるという発想がない、顧問の数学教師の竹中直人を配置したことが興味深い。
高校のブラスバンド部を舞台にした映画『スウィングガールズ』で矢口史靖監督は、女性だけで構成される主人公たちのブラスバンド部に、あえてキーボードだけ男性メンバーを入れることで物語を展開させていた。音楽などの芸術にまつわる成長譚というのは、スポ根のように勝ち負けが明確な世界ではないために、抽象化しやすく独りよがりになってしまうもの。そこで『スウィングガールズ』では、ゴールに設定されている山場のコンテストともうひとつ、理詰めで動く男をそこに置いて、社会的な達成度というのを見えやすくしていた。それが「音楽映画は当たらない」という映画業界のセオリーを覆す、誰でも楽しめるヒット音楽映画になった要因の一つだと思う。
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『リンダリンダリンダ』って、ずっと群馬県を舞台にしたものだと思っていたのだが、「四国」だったの? 「映画はまったりと進行していく」というけど、この映画の隠されたテーマは実は〈待つこと(waiting)〉なんじゃないかとも思っている。というか、登場人物たちが雨の中バス停で延々とバスが来るのを待つ長回しのシーンが印象的だったのだ。そういえば、クライマックスも〈待つこと〉である。寝過ごしてしまってなかなか会場に到着しないバンドのメンバーたちをひたすら待ちながら、場つなぎに奥田民生の「素晴らしい日々」を弾き語りしたりしているうちに、ようやく彼女たちが到着して、「リンダリンダリンダ」を演奏しつつ、そのままタイトル・ロール。ところで、『リンダリンダリンダ』を観ていて、女子高生がブルーハーツとか奥田民生っていうのはどうよとも思った。現在の女子高生の趣味というよりも寧ろ映画のスタッフの世代の趣味なのでは? とも。
一方、ほぼ同時期に公開された『リンダリンダリンダ』は、四国の学園祭を舞台にした即席ガールズロック・バンドが奮闘するストーリーなのだが、山下敦弘監督はちょうど『スウィングガールズ』の方法論と真逆のカタチで、いかにも男性社会的な達成目標を明確に設定せず(あるけどゆるゆるなのだ)、すべてを女の子の感情だけで展開していくストーリーにした。映画の冒頭、学園祭を記録するホームビデオの映像から物語は始まるが、全編がそんなボンクラな感じで、映画はまったりと進行していく。なにしろ山下監督と言えば「日本のアキ・カリウスマキ」ですから(笑)。むしろハイライトの壇上よりも、風呂上がりに弟に疎まれながら、パジャマ姿で練習しているプロセスを丹念に描いて、新味のあるバンドものに仕上がっていた。むろんこれでカタルシスを感じれるかは個人次第。だが、スポ根モノの転じなくとも、「音楽する楽しみ」を丁寧に描写することでヒット音楽映画が作れるという心強い味方になったし、一人一人の性格描写という部分では、遙かに『スウィング・ガールズ』よりも先に進んでいた。京アニが『けいおん!』のアニメ化を企画した背景には、この作品の成功例がけっこう影響しているのではと、第一話なんかを見てて感じる。矢口史靖、山下敦弘の両監督ともワタシは昔から応援しているのだが、より音楽に近いところで仕事している立場でいうならば、やはり『リンダリンダリンダ』のような映画のほうに、作り手の「音楽への愛」を強く感じる。実際にバンドを経験して辛酸をなめたことがある人ならば、2つはただ方法論の違う映画というのではなく、後者のほうのみにある種の「痛さ」を感じて、気が気でいられないようになるところがあるから。
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ニュー・オーダーはインテンシヴに聴き込んだことがないので何とも言えないけれど、トーキング・ヘッズについてはふむふむと同意してしまう。ところで、「過去のガールズバンド、スリッツやレインコーツ、GO-GO'S、少年ナイフ、SHOW-YA、プリンセスプリンセスなどなど、インタビューを読んでけっこう研究したこともあるけれど、バンド経験が少なからずある自分であっても「ガールズバンドの生理」というのはわからづらい(sic.)」。何故ゼルダが入っていないのかと訝るのは私だけか。
ガールズバンドに関しては「判断保留」(笑)なワタシであるが、男性グループの中で“紅一点”として活躍する女性ミュージシャンについては、よい例を聞かれればいくらでも上げられる。それぐらいワタシは“紅一点”バンドが好きである。トーキング・ヘッズのティナ・ウェイマス、ニュー・オーダーのジリアン・ギルバードなど、男女雇用機会均等法時代の旗手であるニュー・ウェーヴなバンドには好サンプルも多く、彼女らを受け入れたバンドにジェントルな印象をもたらすことに貢献している。ロックスターはいつの時代も、ツアーなどで地方行脚するときにグルーピーとの交流がついて回るもの。こうしたロックバンド特有の「課外活動」にも、男女混成バンドの場合はバイアスがかかる部分があるようで、基本的に女性メンバーのケアを優先してツアー先で荒れることもなく、その分の有り余るエネルギーが音楽をクリエイトするほうに注がれるという、バンドへの音楽的信頼度を高めることになっている。そして実際、ロックバンドとして男社会で逞しく生きる彼女たちのガンバリは凄い。当初はコンセプト先行気味だったトーキング・ヘッズのファンクネスにしても、ベースのティナが形作っているところが大きいし、ニュー・オーダーのトレードマークであるエレクトロニクス処理も、作曲面をリードするフロントの2人よりも、“ジ・アザー・トゥー”を自称するジリアンとパートナーのスティーヴンがグルーヴの要をになっているし。
バンド物の映画ということでは、〈ロック魂〉のカリカチュアみたいな主人公が小学生にロックを教えることによって、社会性を身に着け、成熟していくという『スクール・オヴ・ロック』をマークしておきたいし、それから『海角七号』*1。
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