Cagot

Sean Thomas “The last untouchable in Europe” http://www.independent.co.uk/news/world/europe/the-last-untouchable-in-europe-878705.html


http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/the_l.htmlにて知る。Cagotと呼ばれる、仏蘭西ピレネー地方に存在した(現在も存在している)被差別民の話。Marie-Pierre Manet-Beauzacという自らの先祖を調べているうちに、Cagotであると知った女性の話を軸に記事は進められていく。接触のタブー、外部との結婚の禁止等々の差別を受けながら、その起源については謎に包まれている。仏蘭西革命によって、差別が法的には撤廃され、徐々に仏蘭西国民一般に同化していったとはいっても、今なお〈何故差別されなければいけないのか〉は不明のまま、差別は続いている。最近の研究によると、カトリックに改宗したムスリムの子孫であるとか。


Daily Cagot life was likewise marked by apartheid. Cagots were forbidden to enter most trades or professions. They were forced, in effect, to be the drawers of water and hewers of wood. So they made barrels for wine and coffins for the dead. They also became expert carpenters: ironically they built many of the Pyrenean churches from which they were partly excluded.

Some of the other prohibitions on the Cagots were bizarre. They were not allowed to walk barefoot, like normal peasants, which gave rise to the legend that they had webbed toes. Cagots could not use the same baths as other people. They were not allowed to touch the parapets of bridges. When they went about, they had to wear a goose's foot conspicuously pinned to their clothes.

という部分は、当事者には失礼ながら、興味深い。
手許の仏英辞典には固有名詞としてのCagotは載っていなかった。ただ、小文字のcagotは(名詞として)bigot(頑固者)、(形容詞として)sanctimonious(神聖ぶった)という意味を充てている。接触のタブー(特に裸足で歩くことができない)ということから、一般人にはない力を有していると観念されたために、忌避されることになったと想像するのはそれほどトンデモ的なことではないだろう。また、両義的な力への信仰が衰えると、今度はたんに今まで差別されてきたから、現に差別されているから、更に差別され続けるという事態(差別のトートロジー)が生起する。差別の前近代的な在り方から近代的な差別の在り方へ。
そもそも聖と穢は不可分、表裏一体であり、フレーザーを繙くまでもなく、接触のタブーは王権を特徴づけるものである。日本の天皇は或る意味で儒教によって飼い慣らされてしまったが、古代的な王の質を長らく保ち続けた出雲国造は江戸時代までは直接地面の上を歩くことはできなかった(原武史『〈出雲〉という思想』、p.159ff.)。また、鬼の子孫と称され、天皇の葬儀のときに棺を担ぐかわりに税が免除された京都の〈八瀬の童子〉(See eg. 猪瀬直樹天皇の影法師』)は特権なのか、それとも差別なのか。
<出雲>という思想 (講談社学術文庫)

<出雲>という思想 (講談社学術文庫)

天皇の影法師 (新潮文庫)

天皇の影法師 (新潮文庫)

何れにしても、部落差別を初めとして、現在残る差別の多くは、その起源はどうであれ、今まで差別されてきたから、現に差別されているから、更に差別され続けるというトートロジー的な差別に他ならないだろう。
ところで、両義的な力と差別との関係については、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080610/1213065637タンザニアのAlbino差別問題に言及している。