語族(メモ)

語族(language family)について、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080325/1206379769とかhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080419/1208587466とかでちょろっと言及はしたのだが、偶々米国のNational Virtual Translation Center*1Languages of the Worldの中の


“The Sino-Tibetan Language Family” http://www.nvtc.gov/lotw/months/may/SinoTibetanLanguageFamily.htm


を見つける。それによれば、漢蔵語族のうち、漢語支は(マンダリンを初めとする)14の言語があり、蔵緬語支には(チベット語を初めとする)389の言語がある。特に、蔵緬語支については、その複雑な系統関係一挙に示されている。これを見て、雲南省の大理一帯で使われている白語というのは蔵緬語支の中でも孤立したものなんだということを知った。また、他のソース*2では漢蔵語族に含めているタイ語系(Tai Branch)や苗瑶語系(Southern Branch or Hmong-Mien Branch)はここでは漢蔵語族に含めていない。さらに、Languages of the Worldでは朝鮮語や日本語をアルタイ語族に含めることについても懐疑的である*3
漢蔵語族に話を戻すと、漢蔵祖語を話していた人々はヒマラヤ山麓に住んでいた。そして、それが漢祖語と蔵緬祖語に分岐したのは紀元前4000年前後であるという。勿論、言語と民族を混同することは許されないのだが、紀元前4000年前後にヒマラヤから中原の方に移動したのが漢族その他の民族の先祖で、ヒマラヤに留まり続けたのがチベット族その他の民族の先祖であるという想像は如何なのか。因みに、現在チベット系の民族で最も東に住んでいるのは湖北と湖南の土家族であろう。また、中国領内では話されていない中国語であるDungan*4が興味深い。
さて、日本語系とされている言語は全部で12の言語*5。そのうち11は琉球語系である。琉球語は先ずAmami-Okinawan(奄美・沖縄)とSakishima(先島)に分かれ、前者はさらにNorthern Amami-OkinawanとSouthern Amami-Okinawanに分かれる。Northern Amami-Okinawanに属するのは、Amami-Oshima, SouthernとKikai (喜界)とAmami-Oshima, NorthernとToku-No-Shima(徳之島)。Southern Amami-Okinawanは一般にいうところの琉球語或いはウチナーグチなのだろうけれど、Oki-No-Erabu(沖永良部)、Okinawan, Central、Kunigami(国頭)、Yoron(与論島)に分かれる。特に注目しなければいけないのは、琉球語系の殆どの言語について、”Those under 20 are monolingual in Japanese “と記されていることであろう。Amami-Oshima, Northernと(沖縄本島の主要部で使われる)Okinawan, Centralはmainlyという限定が付いてはいるが。特に、先島の八重山語は”almost extinct”と認定されてしまっている*6

ところで以前、「〈印度ヨーロッパ語族〉の〈発見〉」は「政治的な準位においてどのような機能を果たしたのかは(少なくとも私には)わからないが、少なからぬ知識人に対して、どのような文化もより大きな全体の一部でしかないという相対性の感覚を齎したことは間違いないだろう」と書いたのだが、よく考えてみると、語族という観念が政治的にはかなりやばい役割を担ってきたということは事実だろう。例えば、アレント全体主義の先駆者として採り上げた種族的ナショナリズム(tribal nationalism)、さらにはpan-movement。独逸領内の独逸人を超えたゲルマン民族という主張、露西亜を超えたスラヴ民族という主張に語族という観念が大きなサポートとなっていたことは想像に難くない。ナチスのアーリア民族という主張は〈印度ヨーロッパ語族〉の発見抜きにはありえなかったのではないか。

The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)

The Origins of Totalitarianism (Harvest Book, Hb244)