定冠詞疑惑とか

三浦和義さん*1サイパンで逮捕されたという。『週刊文春』が火をつけた〈ロス疑惑〉がメディアを席捲したのは1980年代の前半に属する。三浦さんが逮捕されてから世間では色々なことがあり、例えば蘇聯のチェルノブイリ原発が事故を起こし、北朝鮮工作員である蜂谷真由美aka金賢姫大韓航空機を吹っ飛ばし、リクルート事件が起こり、そして何よりも天皇が死んで年号が変わったりして、世間では三浦和義とか〈ロス疑惑〉のことは段々と口にしなくなった。平成になって、某古本屋の100円均一のワゴンで三浦和義さんの著書『情報の銃弾』というのを買ったことがあったが、その頃には、ミウラカズヨシというとサッカー選手を意味するようになっていたのだ。また、1990年代における悪の主役であるオウム真理教が既にブレイクしていた。

情報の銃弾―検証「ロス疑惑」報道

情報の銃弾―検証「ロス疑惑」報道

さて、日本では米国加州のLos Angelesを略してロスという。英語でLos Angelesを略す場合はLAというのが普通だろう。Losとは西班牙語の定冠詞なのだから、米国人から見れば、〈ロス疑惑〉というのは〈the疑惑〉、定冠詞疑惑だ。たしかに定冠詞には疑惑がいっぱいだ。英語を使うとき、いつもここは定冠詞にするのか不定冠詞にするのか迷ってしまう。それで、必要以上に複数形を使ったり、some ofという表現を使ったりする。仏蘭西語は部分冠詞というのがあって、便利ではあるが、どうも英語と仏蘭西語では定冠詞を使う基準が違うらしく、英仏対訳のものとかを見ていると、英語の方は不定冠詞なのに仏蘭西語の方は定冠詞ということも多々ある。またしても疑惑だ。ロスというのは無意味というか意味のロスであるわけだが、それと似たのを探すと、ユーゴスラヴィアを略してユーゴという言い方だろうか。ユーゴスラヴィアとは南スラヴという意味で、ユーゴというのはたんに南といっているにすぎない。あと、Holandを略して蘭という。蘭学とか。しかし、蘭という漢字が表わしているのはlandという英語や独逸語で国とか土地というきわめて一般的な意味を指示する言葉であり、スコットランドフィンランドポーランドもみんな蘭だ。
Los Angelesつながりであるが、桑港を香港では三藩市、中国大陸では旧金山という。前者はベタな音訳だが捨てがたく、後者はかつてのゴールド・ラッシュの記憶を喚起する。さらにロス郊外の或る地域に対する聖林という誤訳に基づく日本での表記も捨てがたい。
最後に、滝田洋二郎監督の『コミック雑誌なんかいらない』(内田裕也主演)に本人役で出演した三浦さんはかっこよかったということは言っておきたい。

*1:本文では〈さん〉付けするが、これは判決が確定するまでは推定無罪という〈法的に正しいこと〉にコミットしているわけではない。