麗江を巡って

承前*1

麗江では親戚の家に泊まった。妻の父親のいとこに当たる女性が麗江に嫁いで、「麗江古城」の南側に位置する「忠義村」という場所に住み、民宿(客桟)を営んでいる。家は中央を庭にして四方を部屋で囲んだ四合院。「重点保存民居」に指定されている。「祥和院」という客桟なり。この場を借りて、宣伝しておく。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070321/1174499874で北京の四合院の話を紹介したが、実は中国式の四合院に泊まるというのは前々からの夢だったのだ。北京に元々清朝の某貴族の屋敷で文革中は四人組のうちの誰かが住んでいたという四合院を改装したホテルがある筈で、かなり以前に北京に行ったときに、値段も(「貴族の屋敷」でありながら)かなり庶民的であったこともあって、そのホテルに泊まりたかったのだが、(団体行動だったので)その希望は容れられず、結局ホリデイ・インに泊まったことがあった。それはともかくとして、四合院の回廊に椅子を出して、庭の花や空の月を眺めながら、茶を啜り、煙草を吸うというのは何とも気持ちがいい。ちょうど白耳義人も泊まっていたが、彼も回廊で煙草を吸いながら読書するというのを好んでいたようだ。とはいえ、例の事件のおかげで四合院には1泊しただけだった。
この「忠義村」の辺りは民宿(客桟)を営む家は多いとはいえ、「古城」のように観光客で賑わうということはない。まかり間違っても、団体さんは入ってこない。入り組んだ路地の雰囲気は日本の地方都市の武家屋敷街の雰囲気に近いように感じた。
朝はバター茶。このチベット風の飲物がこの一帯でどれほど一般的なのかどうかは知らない。ただ、原料となるヤクのバターは近くの市場でも売っていた*2。竹筒に煮立ったお湯を入れ、茶、バター、胡桃、塩を加えて攪拌する。嬉しかったのは、妻の入院中も病院までバター茶を車でわざわざ届けてくれたということ。これは私たちだけではなく、ほかの被害者の方々も喜んでいた。
ところで、「麗江古城」もいいが、そこから4kmばかり北にある「束河」という集落もコンパクトかつプリミティヴでお薦め。ここは集落としては「麗江」それ自体よりも古い。
さて、麗江だけれど、観光客は圧倒的に中国人が多い。中国なんだから当然だろうと思われるかも知れないけれど、1990年に(麗江には来れなかったが)雲南を訪れたとき、石林でも大理でも、観光客といえば外国人が主流だった。昔、観光地というのはそもそも外国人向けに(或る種の輸出商品として)開発されるが、経済成長に伴う中産階級の拡大とともに(それ以前の宗教的巡礼や湯治とは区別された)観光旅行というハビトゥスが浸透することによって内需化されるという仮説みたいなものを思いついたことがあるが、そういうことなのだろうか。大理はそのような歴史的変容を取り込んで、それを上手く(それも中国人向けに)パッケージングしているように思える。大理には「洋人街」という主に西洋人が経営するバーやカフェが立ち並ぶ一角があり、上海でも滅多に見られないようなCDを扱ったショップもある。ここで、中国人観光客は〈二重のエクゾティズム〉を経験できるということになる。先ずは雲南少数民族(白族)文化であり、またバックパッカー文化を成分に有する西洋文化
話が飛んだ序でに、大理では別荘地の開発が盛んで、主に香港や台湾の金持ちが避暑用に購入しているとともに、地元の人間が(別荘ではなく)自宅用として購入しているとのこと。私のおじさんも現在3階建ての豪邸を建築中。
そういえば、「大理市」という都市の構成も面白い。大理市は主に観光の中心としての「大理古城」と行政及びビジネスの中心としての「下関」からなるといっていい。下関というのは、これが何とも没個性的な中国の地方都市なのだ。何故か知らないが、私はこの没個性的な下関の来歴に強い興味を持った。
話をまた転がす。上海は広東料理に席巻されているといっていい。ところが、雲南省では、(昆明はともかくとして)麗江でも下関でも広東料理が全くない。替わって目立っているのが四川料理*3。外国人でも中国人でも、観光客がわざわざ雲南省四川料理を食べようとは思わないだろうから、地元の人が食べるのだろう。今回、納西族、白族、Dai族と所謂少数民族の料理ばかり食べていたのだが、民族を越えて、雲南の料理は麻辣だ。雲南料理は東京でも上海でも勿論食べたことはあるが、あれは日本人や上海人向けに手加減していますね。あと、雲南の食で気づいたのは、雲南の人は韮を好むということ。麺にしても鍋物にしても、日本料理とか普通の中華料理なら葱をぶち込むでしょというところに、雲南では韮をぶち込む。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070330/1175229916 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070408/1176061638

*2:ヤクの乾し肉を売る店はあちこちにある。また、チベット自治区ではインスタントのバター茶が製造されており、これは上海でも買える。

*3:上海でも四川料理は多いけれど。