かなり前だったと思うけれど、或る人が就職して読書時間がないといったので、本なんて通勤電車の中で読めといったことがある。彼は(県庁所在地らしいが)地方都市の住人だった。http://d.hatena.ne.jp/rajendra/20070328/p1を読むと、私がいったことは全然的を外していたんだなと今更ながら気づいた。多分、彼は自動車で通勤していたのであり、自動車を運転しながら読書するなんて、二宮金次郎でもできっこない。
典型的な悪循環であり、究極的に誰のせいかということはいえないと思う。別の方が「地方の人がクルマ依存の生活を、あらためることができない限り、どんな取り組みも失敗する宿命にある」といっているが*1、「地方の人がクルマ依存の生活を、あらためること」の前提は公共交通機関の充実であり、そうでない場合は「クルマ依存」の継続は合理的な選択となる。「合成の誤謬」と言われているが、このように「個人」も「鉄道・バス会社」もそれぞれの所与の状況で合理的に振る舞っているのだが、そのミクロにおける合理性こそがマクロにおける不合理性を生み出すということになる。
人口の多い都市部では、日常の通勤・通学客の需要が十分にあるから、個人が車を持っても鉄道・バス会社がペイする。しかし人口の少ない地方部にあっては、日常の用まで自家用車で済ませてしまうし、駅ビル等の駅周辺事業が貧弱だから採算が取りづらくなる。まして人口寡少地域では、公共交通のために行政府が財源を負担しようとしても世間の合意が取れまい。個人が保有する車の台数は都市部の方が多いが、交通の重心が個人の車にあるという点では地方部の方が上だろう。公共交通が不便だからといってマイカーにシフトしてしまうと、その公共交通機関はますますコストのために利便性を下げ、要するに見捨てざるを得なくなる。人口がさほど無いのに交通を自家用車に移しすぎたのが、地方の敗着といえるんじゃなかろうか。要するに合成の誤謬ということになるんだけど。
色々と興味深い論点がある。例えば、
同じ市とはいっても、一括りにはできないということになる。また、ここでいわれている「日常の脚として鉄道や路線バスを使える人は少数派」というのは「地方」だけでなく、東京への通勤圏の内部でも結局はそうなんじゃないかと思う。私は千葉県にずっと住んでいたが、自動車を使わずに生活できるというのはJR総武線や京成の駅に徒歩で行ける範囲に住む人に限られるのではないかと思う。新京成とか東武野田線の沿線では自動車のない生活は無理に近い。その前に、
地方では、日常の脚として鉄道や路線バスを使える人は少数派で、駅に行くにもクルマが必要という人が多いですから、どうしても、公共交通機関を大切に守っていこうというコンセンサスを得ににくいという事情もあると思います。
ローカル線の廃止と引き替えの新幹線駅の建設という横暴がまかり通ってしまうのも、地方では、公共交通に対して共有財産だという認識が持ちにくいからだと思います。
http://d.hatena.ne.jp/anhedonia/20070324/p1#c1174806523
というコメントがあるのだが、私の実感では(「地方」はどうか知らないけれど)JRの駅は市と市、区と区の境界に置かれていることが多いようだ。津田沼駅は習志野市と船橋市の境界、秋葉原駅は千代田区と台東区の境界、御茶の水駅・水道橋駅は千代田区と文京区の境界、飯田橋駅は千代田区、文京区、新宿区の境界、市ヶ谷駅・四谷駅は千代田区と新宿区の境界、千駄ヶ谷駅・代々木駅・新宿駅は新宿区と渋谷区の境界等々。地域というのをコスモロジカルに考えた場合、鉄道の駅というのを(それは内/外を媒介するものだが)中心ではなく周縁に位置づける心性というのはあるのだろうか。
歴史的経緯から見て、集落から離れた所に駅を作らせた所も多く、敷設後も町の共有財産という意識も持たれないまま「敷き殺され」て、廃止が決まればなぜか存続を求められる…という悪循環が全国至る所にあるようですね。
http://d.hatena.ne.jp/anhedonia/20070324/p1#c1174804326
ところで、「クルマ依存」の本場といえば米国であろう。”No one walks in LA.”という歌もあったな。しかし、ボストンを舞台にした『アリー・マイ・ラブ』は主要な登場人物が殆ど自動車に乗らない稀有なドラマだったのかもしれない。みんな自宅から法律事務所まで歩いて通っているようだったし、法律事務所と裁判所の間も歩きだろう。そして、事務所の地下のバーで飲んだくれて、歩いて自宅に帰る。ボストンってそんなにコンパクトな街なんですか。
また、話はずれるけれど、電車通勤する習慣がないとすると、その地方におけるスポーツ新聞やポルノ小説といった家には持って帰れない書物の売上も少ないわけですね。
なお、関連するものとして、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061228/1167319165やhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070318/1174233233もご笑覧下さい。